図1◎リオトロピック液晶(左)からメソポーラス金属(右)を合成する流れ
図1◎リオトロピック液晶(左)からメソポーラス金属(右)を合成する流れ
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図2◎メソポーラス金属を合成する手順
図2◎メソポーラス金属を合成する手順
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図3◎メソポーラスPtファイバー。左から,走査型電子顕微鏡,高分解走査型電子顕微鏡,透過型電子顕微鏡でそれぞれ撮影したもの。
図3◎メソポーラスPtファイバー。左から,走査型電子顕微鏡,高分解走査型電子顕微鏡,透過型電子顕微鏡でそれぞれ撮影したもの。
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図4◎メソポーラスPtファイバーの電子線トモグラフィ
図4◎メソポーラスPtファイバーの電子線トモグラフィ
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 物質・材料研究機構(NIMS)などは,特異なメソ(ナノ)空間を持つ金属ファイバーの合成に成功した。NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の若手独立研究者の山内悠輔氏らと,早稲田大学理工学術院教授の黒田一幸氏らが共同で開発したもの。鋳型として陽極酸化ポーラスアルミナ(PAAM)を使い,界面活性剤の自己組織化プロセスを適用することで,規則的なメソ細孔を持つ白金(Pt)ファイバーを合成した(図1)。

 メソポーラス物質は,直径が2~50nmの細孔が規則的に並ぶ物質。比表面積が大きいことから触媒材料や吸着材料としての応用が期待されており,近年では,電気化学的手法により,金属骨格を持つメソポーラス金属の合成が可能になった。しかし,従来のメソポーラス金属はメソ構造が不規則で,マクロスケールでの形態制御やメソ細孔の配向制御などが難しい。そこでNIMSなどは,規則性の高いメソポーラス金属合成を目的に,溶媒揮発法を適用した液晶テンプレート法(Evaporation-mediated Direct Templating, EDIT)を開発してきた。

 今回の研究では,このEDITをさらに発展させた。PAAMと界面活性剤の集合体という大きさの異なる2種類の鋳型を使うことで,メソポーラス金属の形態とメソ細孔の配向を同時に制御できるようになった。

 具体的にはまず,塩化白金酸水溶液に非イオン性の界面活性剤と溶媒であるエタノールを混ぜ,前駆溶液を調製。この前駆溶液をPAAMのチャネル中に浸透させてからエタノールを揮発させることで,界面活性剤のような両親媒性分子などの溶媒の共存系において濃度を変えるだけで液晶状態が現れるリオトロピック液晶(LLC)が形成される。するとPAAMの制限されたチャネル中では,界面活性剤はロッド状の集合体となる。さらに各ロッドはチャネルの長軸に対して垂直に並び,ドーナツ状に積み重なって配列する。NIMSなどはこの現象を, LLCが形成される段階で制限空間場の影響を受け,液晶中のメソチャネルがマイクロチャネルの壁面に沿ってドーナッツ状に巻いていくことによると考えている。

 次に,LLCを導入したPAAMを,還元剤であるジメチルアミンボラン粉末と同じ密閉容器内に置き,DMABの昇華に伴う気相輸送によってPtを析出する。その後PAAMを溶かし,水とエタノールでLLCを取り除く(図2)。最終生成物であるPtファイバー内のメソ細孔は,はじめの液晶構造を完全に反映し,ドーナツ状のメソ構造を形成している。

 最終生成物であるファイバーの直径は,利用するPAAMのチャネルの直径によって制御できる。NIMSなどは走査型電子顕微鏡による観察から,ファイバー同士はアレイ状に配列しており,すべてのファイバーの最表面で規則的なメソ構造となることを確認した(図3)。メソチャネルはファイバーの長軸に対して,ほぼ垂直方向に配向する。さらに,電子線トモグラフィを用いてファイバー内部を詳細に解析した結果,メソチャネルはドーナッツ状に巻いて積み重なっていることが分かった(図4)。

 この金属ファイバーは表面積が大きく,金属のみを骨格とするので導電性が高い。このため,従来のシリカ系メソポーラス物質では不可能だった用途への応用も期待できるという。さらに,この金属ファイバーの集合体は,ファイバー間のマクロ空間とファイバー中のメソ空間のように大きさの異なる空間が存在した階層構造を持ち,外部からさまざまな物質を取り込みやすい。このため,電極として使えば取り込んだ物質を素早く拡散することが可能だ。Pt以外の金属にも適用できるので,金属骨格の組成を変えることで燃料電池やキャパシタなどにも応用できるという。