現在開催中の第55回応用物理学関係連合講演会(2008年3月27~30日,日本大学理工学部 船橋キャンパス)の二日目,二つのシンポジウム企画に関係者の予想を大きく超える人気が集まった。「グラフェンは“面白い”,“役に立つ”―基礎物理から応用まで―」と,「結晶Si系太陽電池の将来ビジョン」の二つである。

 グラフェン(graphene)は,六角形に並んだ炭素原子を2次元的に敷き詰めた構造の物質。鉛筆の芯などに利用されているグラファイト(黒鉛)は,このグラフェンが積層してできている。極めて身近な物質ながら,発見されたのはわずか4年前の2004年。発見した英University of Manchesterの研究者は,鉛筆の芯にセロテープを当ててはがすことでグラフェンを作り出していたことが知られている。

 グラフェンが注目されるのは,まず,キャリア移動度が20万cm2/Vsと非常に高いこと。この値は,金(Au)や銅(Cu)を含むほとんどの金属やカーボン・ナノチューブの値を大きく超える。加えて,金属と半導体の中間的な特異な性質をいくつも備えていることが分かっている。グラフェンについての研究発表は2006年ころから急増し,最近も米IBM Corp.や富士通などが相次いで,グラフェンについての研究成果を発表した(関連記事1関連記事2)。
 
 このグラフェンについてのシンポジウム会場となった教室の席数は約180人。ところが講演が始まる約10分前には既に満員になり,立ち見の人が教室の両脇と後ろの通路を埋め尽くす状況になった。

 シンポジウムでは,北海道大学 電子科学研究所 ナノテクノロジー研究センター 教授の徳本洋志氏が,Manchester大のセロテープの件や発見1年後の2005年には既に量子ホール効果が確認されたこと,既に海外の研究会ではカーボン・ナノチューブについての研究発表と並ぶぐらいの発表件数が集まる状況になっていることなどを紹介した。また,東京工業大学 大学院 理工学研究科 物性物理学専攻 教授の安藤恒也氏は,グラフェン上の電子はあたかも質量がゼロであるかのように振舞う(ニュートリノの運動などを記述するWeyl方程式に従う)こと,2007年にはグラフェンを用いた負の屈折率を示す素子が開発されたことなど,を詳細に説明した。

太陽電池の発表件数は3年前の2倍超に

 もう一つの人気シンポジウムだった結晶Si系太陽電池の発表でも,約200席の教室に人が入りきれず,廊下に数十人があふれる状況になった。今回の応用物理学会での太陽電池関連の発表は,キーワード検索に乗るものだけで89件。3年前(2005年の春の大会)の43件の2倍超と,太陽電池の世界的な盛り上がりを反映する格好になった。結晶Si系以外にも有機系太陽電池の研究発表も大きく増えている。