図1 JASRACシンポジウムのパネル・ディスカッションの登壇者
図1 JASRACシンポジウムのパネル・ディスカッションの登壇者
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図2 ドワンゴ 代表取締役会長の川上量生氏
図2 ドワンゴ 代表取締役会長の川上量生氏
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図3 ホリプロ 代表取締役社長 COOの堀義貴氏
図3 ホリプロ 代表取締役社長 COOの堀義貴氏
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 「著作権者には,いろいろな立場の人がいる。完璧な対策というのは無理かもしれないが,最も多くの人が納得する現実的な解を模索している。そのための取り組みの一つとして,『YouTube』がやっているような動画を自動で識別する仕組みを開発している」----。ドワンゴ 代表取締役会長の川上量生氏は,子会社のニワンゴが運営する動画共有サイト「ニコニコ動画」の著作権管理対策についてこのように語った。日本音楽著作権協会(JASRAC)が2008年3月25日に開催した「JASRACシンポジウム」のパネル・ディスカッションで発言した(図1)。

 川上氏はこのパネル・ディスカッションで,YouTubeとニコニコ動画では人気がある動画の傾向が大きく異なることを指摘。ニコニコ動画では,テレビ番組や音楽のプロモーション・ビデオが丸ごと投稿されることもあるが,投稿の中に占めるそうしたコンテンツの割合は低く,人気もあまり高くないとした。既存のコンテンツを編集したパロディー的な作品が人気を集めており,「昔は,テレビ番組の好きなシーンだけ集めたビデオを作ったり,替え歌を作ったりして友人関係の中で盛り上がっていた。その文化が,インターネットとニコニコ動画によって拡散した」と現状を分析した。「著作権者の不利益にならない範囲であればこうした文化は残ってもいい」と川上氏は考えているという。著作権者の不利益を減らす取り組みの一環としてニワンゴが動画を識別する技術を開発していることを川上氏は明らかにした(Tech-On!の関連記事)。

 また川上氏は,「自分がテレビ局の人間だったら,『ニコニコ動画に放送番組を出す理由がない』と考えるだろう」とし,通常のテレビ番組とは異なるコンテンツがニコニコ動画で配信されるべきだとの考えを示した。「宣伝効果が得られるケースもあるかもしれないが,それは限定的だ。どのネット系企業も,テレビ局に儲かるスキームを提示できていない」(川上氏)。インターネットを通じた動画配信を普及させるための過渡期には過去のテレビ番組などを配信するという方法もあるが,それだけでは「テレビの劣化コピーになってしまう」(川上氏)とし,インターネット配信ならではのコンテンツを提供していくことが大事だとした(図2)。

「コンテンツ大国」の根拠は?

 芸能プロダクションであり,映像の企画・制作なども行うホリプロの代表取締役社長 COOである堀義貴氏はこのパネル・ディスカッションで,コンテンツの新しい市場を生み出すことの重要性を強調した(図3)。「国が『5兆円のコンテンツ大国を目指す。だから著作権者の権利行使を制限する』といっても,どこからその5兆円が生まれるのか。国内での市場の取り合いのために権利を制限しているようでは,この国のエンターテインメントは沈んでいく。CS放送やBSデジタル放送などの新しいメディアが国内で生まれるたびに『バラ色の未来がある』と言われてきたが,本当にバラ色になった試しはない」とした。

 堀氏は,「インターネットを通じたコンテンツの流通にすべて反対しているわけではない。自分たちでもいろいろなネット事業に挑戦した。コンテンツを創作するセンスを持った人が隠れているYouTubeやニコニコ動画を応援している面もある」とし,インターネットに対する拒否反応があるわけではないとした。しかし,事業として魅力的な提案がこれまでなかったという。

 コンテンツ産業が発展するためには,「日本のコンテンツにあこがれを持ってもらえている間に世界に進出するしかない」と堀氏は主張し,「『アジアの各国に,それぞれの言葉でコンテンツを配信するためのポータル・サイトを作る環境を整えるために権利を制限します』という提案であれば,われわれも認めたかもしれない。しかしそんな提案は一度も受けたことがなかった」と述べた。インターネットから今後もさまざまな新しい提案が出てくると見ており,それらの新しい提案に期待するとした。