水素を利用する燃料電池自動車(FCV)の実用化に関し,自動車メーカーの同事業関係者は2008年3月13日,「2015年が事業化を見極めるタイミングになる」と口をそろえた。経済産業省が実施する「水素・燃料電池実証プロジェクト」(以下,JHFC)が開催したセミナーで,登壇した自動車メーカーの代表や大学教授が同様のコメントを繰り返した。

パネル・ディスカッションの様子。経済産業省,トヨタ自動車,日産自動車,ホンダ,新日本石油,東京ガスを代表して6人が登壇した。
パネル・ディスカッションの様子。経済産業省,トヨタ自動車,日産自動車,ホンダ,新日本石油,東京ガスを代表して6人が登壇した。 (画像のクリックで拡大)

 燃料電池車は,同じ環境対応型の自動車では,電気自動車やハイブリッド車に比べて実用化までの道のりが遠く「飛行機にたとえるならハイブリッド車が巡航中,電気自動車が離陸上昇中とすれば,燃料電池車は滑走路を走行中」(早稲田大学大学院 教授の大聖泰弘氏)という状況である。車両の耐久性の向上や,車両と水素インフラ双方のコスト削減などが課題になっている。JHFC推進委員会委員長の石谷久氏(慶應義塾大学大学院 教授)は「これらの課題を解決し,2015年をメドに技術の成立性を確認し,国と産業界が燃料電池車の事業化を決断する」とのシナリオを描く。

JHFC推進委員長の石谷氏の講演資料より
JHFC推進委員長の石谷氏の講演資料より (画像のクリックで拡大)

 このシナリオに自動車メーカーも同意した。トヨタ自動車のFC開発本部FC技術部長である河合大洋氏は「燃料電池車を普及させるには1台当たりの車両生産コストを今の1/100程度に抑える必要がある。技術開発で1/10まで下げれば,量産効果であとの1/10はクリアできる。技術開発による1/10の達成目標時期は2015年が妥当。その後,量産に入れば2020年代にはあとの1/10も達成できるだろう」とした。

 日産自動車 総合研究所 燃料電池研究所エキスパートリーダーの飯山明裕氏は「コスト削減と並んで大きな課題になるのが耐久性。触媒や膜材料の評価をいかに簡便にできるかが今後の技術開発のポイントになる。中性子線やX線を使った計測技術を国の協力も得て活用しながら,高電位下でも腐食しにくい触媒担体材料や電位サイクル下で溶出しにくい触媒材料などを開発したい。2015年には耐久性10年の燃料電池車の実現にメドがつくのではないか」とする。

 ホンダの四輪開発センター第一技術開発室シニアマネージャーの守谷隆史氏は「燃料電池車は,開発者にとっては社会的な要求への回答になることなどが魅力。消費者にとっても静音性やドライバビリティといった魅力がある。FCスタックやモータの小型化が進み,セダンにも燃料電池システムが搭載できるようになった。今後の課題はコストと耐久性だが,これも2015年には成果がみえてくる」と語った。

 一方,水素インフラに取り組む新日本石油と東京ガスは,燃料電池車の普及に向けて,水素インフラの個別機器の技術開発に加え,行政の支援が必要と主張する。導入初期には車両が普及していない中でインフラが先行して整備されていなければならず,赤字運営を余儀なくされる水素ステーションの支援策が必要になると両社は説明。また「水素ステーションの立地などに関する法規制緩和が必要」(東京ガス 技術戦略部 水素ビジネスプロジェクトグループマネージャーの田島正喜氏),「政府がロードマップを描いてリードしてもらいたい」(新日本石油 執行役員研究開発企画部長の吉田正寛氏)と行政への要望を述べた。自動車メーカーも「(経営が苦しい)導入初期の少量生産時には国の支援が必要」(飯山氏)としている。

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