産業技術総合研究所先進焼結技術研究グループは新東工業,新東ブイセラックスと共同で,遠心力による均一加圧を利用した新プロセス「遠心加圧溶融法」を開発し,ビスマス・テルル系高性能熱電厚膜を作製した。このプロセスを利用することで,単結晶に近い構造の厚膜が得られると同時に,実用レベルの熱電特性を実現した。高性能の厚膜熱電素子が簡単な工程で作製でき,熱電発電素子の高出力化/低コスト化/小型化へのメドが付いた。
熱電厚膜を用いた熱電発電素子は空冷フィンとして機能し,自然冷却でも発電に十分な温度差を確保できる。加えて,曲面形状の排気ダクトなどにも使用できる。今回開発した遠心加圧溶融法は,単結晶に近い熱電厚膜が得られるだけではなく,従来の熱電厚膜作製法より製造工程が簡略化し材料歩留まりの改善が期待できる。
その遠心加圧溶融法では,あらかじめ絶縁酸化物の基板に溝加工を施し,原料粉末を所定量充填した後,ふたをかぶせて閉鎖空間をつくる。この基板に厚さ方向の遠心力を加え,空間内の原料を溶融・凝固させて熱電厚膜を得る。密度がほぼ100%で出力の増加に寄与する。
この製法の特徴は三つ。第1は,遠心力を利用するために均一な厚膜となり,パターン形状を熱流に合わせた場合には廃熱の効率的利用が可能となる。第2は,閉鎖空間内部での原料加熱は蒸発による組成ずれがない上,同じく蒸発による損失がなくて歩留まりがよい。最後は,原料の調整で厚さ数10μm~数mmまでの成膜ができる。
今回作製したビスマス・テルル系熱電厚膜は厚さ0.2×幅3×長さ12mm。室温での出力因子が4.2×10-3W/mK2で,この出力因子を熱伝導率で割り絶対温度を乗じた値である無次元性能指数は,熱電材料として実用レベルの1を上回った。基板の厚み方向にc軸がそろった単結晶に近い構造のため,高い電気伝導率を確保できる。
なお,今回の研究成果は,2008年3月21日開催の日本セラミックス協会の年会,同年3月27日開催の日本金属学会2008年春期大会,同年3月30日開催の春季第55回応用物理学関係連合講演会で発表される予定。