-日本全体が儲かるというのはどういった意味なのか。ハリウッド映画のように海外で成功するのは難しいのではないか。

写真:栗原 克己

 日本のコンテンツ産業は,市場を世界規模で考えたほうがいい。チャンスはいくらでもあります。映画に限っても,ハリウッド映画が世界中で強いわけではないでしょう。例えば,インドなどではハリウッド映画より,国内映画のほうが圧倒的に人気です。そんな国で日本のアニメは人気がある。ハリウッド映画よりアニメが見られているくらいです。

 その下地を作ってくれるのがファンです。彼らは大好きなアニメを広めるために,わざわざ台詞を翻訳した字幕をつけてYouTubeに載せてくれる。そうやって下地ができた後に,我々がきちんとした映画館に配給したり,DVDを売ったりしたっていいわけです。

 きれいな映像で見たい人は,ちゃんとDVDを買いますよ。YouTubeで見るのは放送を見忘れちゃったとか,試しに見てみたいとか,そういう人なんです。映像だけじゃなくてイラストとかキャラクター・グッズだって世界で売れる可能性がある。今の状況はそういう可能性を捨てているようなものですよね。

 「日本の著作権法では…」なんて懸念や躊躇が出るなら,(法的な懸念が小さい)海外だけで始めたって構わない。国内と同じだけ海外で売れたら収入が2倍,3倍になるわけですからね。ただし,それでは販売も海外に出て行くから,日本の経済が低下するという状況に行き着いてしまう。コンテンツをどう生かすかという話は,日本全体が一丸となって「日本株式会社」として世界にチャレンジするくらいの姿勢で考えなければいけないんですよ。

 会長は,「ちょうどあの明治維新のときのああいう感覚になってきた」とよく話します。会長が「ここは絶対にやらなければいけないところなんだ」ということを,角川グループの会長としてではなく日本のリーダーの一人として発言してくれたことは,本当に嬉しかったですね。

-Google社との提携発表後の反応はどうか。

 Google社との記者会見の後,インターネットやいろいろなところでユーザーからの支持の声を見聞きしました。本当にありがたいですね。ユーザーからの温かい声をいただいた分,それを裏切らないように一つ一つやっていきたい。

 ユーザーと一緒になって,今回のような仕組みをどんどん良いものにしていきたいと思っています。提携相手もGoogle社に限っていません。ユーザーを大事にすること,著作者をきちっと守ることの二つの条件を満たしてくれるなら,ウエルカムです。

 YouTubeだってまだ2年くらい。もっと新しいものがこれから先もどんどん出てくるでしょう。そういう新しいものに変わる手前のことを理解しておかなければ,変わったときについていけなくなる。だからこそ我々はリスクを取って取り組んだのです。

(終わり,前編はこちら

プロフィール
福田 正氏
角川デジックス 代表取締役社長 1961年,大阪府生まれ。米Boston College卒業。コンピュータ・サイエンスを学ぶ。食品メーカーを経て,障害者のコンピュータ利用の支援事業などにかかわる。2000年2月の角川デジックスの設立時に代表取締役専務に就任,2003年10月より現職。2004年10月よりウォーカープラス(現・角川クロスメディア)取締役,2007年4月より角川モバイル 取締役を兼任。同年10月,角川グループによる米BitTorrent, Inc.への出資に伴い,BitTorrent 日本法人の取締役も兼任している。

 日経エレクトロニクスはこれまで折に触れ,コンテンツ産業の動向やコンテンツの著作権に関するルールや技術について取り上げてきました。以下は,ここ1年ほどの間に日経エレクトロニクス誌に掲載したおもな関連記事です。ご一読いただければ幸いです。