裏ふたを開けると,本体背面側にマイクロプロセサや放熱板などを実装しているのが分かる。発熱部品をキーボード下に配置するのはノート・パソコン設計の定石であると技術者は話す。キーボードは通常,伝熱性の悪い樹脂製であり,しかも手と接触している時間が比較的短いため,熱を感じにくいことが理由だ。


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 MacBook Airでは,マイクロプロセサと画像処理LSIの熱を,グリスを介して放熱板に伝えて拡散させ,ファンからの風によって放熱板を冷却し,温まった空気を外部へ排出するという方法を採用していた。放熱板はアルミ合金を黒色に塗装したものと思われ,マイクロプロセサ側には伝熱性の高いグラファイト・シートが張られている。同様の手法はソニーの「type G」などで採用されている。最近のノート・パソコンで主流となっているヒート・パイプと櫛歯形のヒートシンクの組み合わせ(RHE,リモート・ヒート・エクスチェンジャ方式)は用いていない。「薄型化という目的を優先したのだろう。MacBook Airは比較的消費電力が小さいため,放熱板を使った単純な放熱機構を採用できた」(技術者)。


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 さらに詳しく見ると,放熱板の周囲がぐるりとゴムの「土手」で囲われているのが分かる。放熱板の裏面も,周囲にスポンジの土手が設けてある。ゴムとスポンジの土手は,いずれも通気口の部分のみ途切れている。このことから放熱板が熱拡散とエアダクトの役割を兼ねていると推測される。「ファンからの空気の流れが,マイクロプロセサや画像処理LSIとその電源回路,メモリといった冷却対象近傍に集中するように作ってある」(技術者)。


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 流路は二つである。一つは,
 ファン近くの通気口→マイクロプロセサの電源回路(放熱板の切り欠き部分)→切り欠き部分を通って放熱板上面→放熱板と筐体底面,ゴムの土手で囲まれたエアダクト部分→通気口
という流路である。もう一つは,
 ファン近くの通気口→マイクロプロセサの電源回路→放熱板下面→放熱板,基板,スポンジで囲まれたエアダクト部分→通気口
である。
 つまり,電源回路を冷却するために設けた放熱板の切り欠きを使って,空気の流れを二手に分けている。放熱板に両面から風をあてることで,放熱板から空気への放熱効果を高めていると技術者は見る。

 ゴムとスポンジの土手は,放熱板と筐体,基板の間の隙間を塞ぐだけではなく,放熱板の熱を直接筐体に伝えない役割を果たしていると技術者は推測する。さらに,絶縁やEMI対策まで兼ねる可能性があるという。

 ファンの厚さは5.25mmで,裏面には「DELTA ELECTRONICS, INC.」の社名と型名「KSB05105HB」の表記があった。放熱板上のL字型の金具は,「中心のネジで放熱板と実装基板を共締めし,放熱板をマイクロプロセサと画像処理LSIに押し付けて密着させている」(技術者)。なお,台湾Delta Electronics, Inc.のWebサイトを調べた限りではこの型名の製品の掲載はなかった。

 筐体底面の放熱板と対抗する部分には,黒い絶縁シールで覆われたグラファイト・シートが張ってある。マイクロプロセサなどの発熱で,筐体の底面が部分的に高温になるのを防ぐ目的と考えられる。技術者は「黒色にすることで,輻射率を上げて放熱板から筐体底面への輻射伝熱を高める役割もありそうだ」とした。

電池部分にも一工夫


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 電池についても,ユーザーに発熱を感じさせない工夫がある。電池のパーム・レスト側に当たる面には,グラファイト・シートと穴の開いたクッション材のようなものが張られていた。技術者はグラファイト・シートの使用目的について,「電池内部で部分的に発生する熱を電池全面に拡散させる目的だろう」とした。クッション材はその一方で,筐体に熱を伝えないためのようだ。「パーム・レストはユーザーが常に両手で触れるため,例え問題のない温度でもユーザーが熱を不快に感じやすい」(技術者)。MacBook Airの場合,電池をパーム・レストの下に設置するため,こうした対策を採ったと見られる。

 ノート・パソコンの主要な発熱部品としてはこのほかにHDDがある。MacBook Airの冷却ファンの吹き出し口はHDDと反対方向を向いており,特に放熱対策を施していないように見える。我々が利用した限りでもキーボードがある表側ではほとんど熱さを感じなかったが,底面は若干熱くなっていた。HDDなどによる筐体底面の温度上昇はおそらく,部品の仕様,ユーザーの体感のどちらにおいても許容範囲内だと思われる。ただし,触れる部分に温度ムラがあるとユーザーは,「この部分は温度が高い」と不快に感じやすい。ノート・パソコンの熱設計者は同じ問題で悩んでおり,今後の改善点となりそうだ。