日立製作所と米Opnext,Inc.のグループは,0~+85℃,データ伝送速度25Gビット/秒で動作可能な赤外半導体レーザを開発した( 発表資料)。電界吸収型の変調器(EA変調器)を集積したもので,発振波長は1.3μm帯である。100Gビット/秒版のEthernetでの利用を想定する。100Gビット/秒で伝送する場合は,4波長での波長多重を使う。動作温度範囲が広く,冷却が不要になるので光通信機器の低コスト化につながるという。開発品を利用した実証実験の結果を,2008年2月24~28日に米国で開催された「OFC/NFOEC 2008(The Optical Fiber Communication Conference and Exposition and the National Fiber Optic Engineers Conference 2008)」で発表した。

 実証実験では,発振波長を1290nm,データ伝送速度を25.8Gビット/秒とし,0~85℃で動作させた。単一モード・ファイバ中を約12km伝送した後の信号波形を測定したところ,良好なアイパターンを観測できたという。「温度制御なしで20Gビット/秒で動作する1.3μm帯の赤外半導体レーザはあった。しかし0~85℃,25Gビット/秒で12kmという長距離伝送を可能にしたのは業界初」(日立製作所)とする。
 
 100Gビット/秒版のEthernetで利用する場合,4波長の波長多重を使って伝送することを想定する。そのため,55℃で1290nm,1310nm,1330nm,1350nmの四つの波長で発振するように設計した。各チャネルの発振波長の間隔が20nmと広いため,温度が変化してレーザの発振波長が変動しても,波長多重した光信号を混信する可能性が低いという。そのため温度制御なしで良好な光信号を受信できるとする。開発品のレーザの温度変化による発振波長の変化量は0.1nm/℃程度である。

変調器などを改良

 今まで日立製作所らのグループは1.55μm帯での利用を想定したEA変調器を集積した赤外半導体レーザを開発してきた。具体的には,n型のInP基板上にInGaAlAs系の変調器と,InGaAsP系のDFB(分布帰還)型の赤外半導体レーザを形成している。今回,1.3μm帯で使うため,いずれも材料の組成比を変更した。一般に1.3μm帯を利用すると, 1.55μm帯に比べて光ファイバを伝送することで生じる分散が発生しにくいという利点がある。ただし,伝送損失は1.55μm帯のほうが小さい。

 1.3μm帯に対応させたことに加え,(1)EA変調器を高速変調に対応させたり,(2)温度によるEA変調器の特性変動を抑制したりした。(1)に関しては,変調器の長さを100μmと,10Gビット/秒で伝送する場合の半分に短くした。ただし,単に短くすると十分に光を吸収できず,変調時の信号のコントラストを示す消光比が小さくなってしまう。そこで変調器の構造を改良することで,25.8Gビット/秒で12km伝送した後も9.6dBの消光比を確保した。開発品は,発振波長が1290nm,1310nm,1330nm,1350nmのいずれの場合でも,25℃動作で遮断周波数30GHzを実現した。

  (2)については,EA変調器の材料に温度が変化しても吸収する光の波長が変化しにくいInGaAlAsを利用した。さらにEA変調器の駆動電圧を調整することで,温度変化による特性変化を抑制している。開発品のようなEA変調器を集積化した半導体レーザでは,変調器と半導体レーザの温度変化による波長特性の変化をなるべく近づける必要がある。一般にEA変調器のほうがレーザに比べて波長特性が変わりやすい。そこで駆動電圧を調整する。

  なお,100Gビット/秒版のEthernetは現在仕様を策定中。2010年に仕様が確定する予定である。