神戸製鋼は,大型球形タンク用向けに,優れた溶接性と熱処理後の高強度・高靭性を両立させた厚板の鋼板を発売した。優れた溶接性を確保しながら,タンク成形後に長時間にわたって熱処理した後でも,高強度・高靭性を維持する。

 エネルギー需要の拡大で建設基数が急増しているブタン用やプロピレン用の大型球形タンクに使う。最近,貯蔵効率や経済性を高めるため,タンク1基あたりの大型化・高圧化が進んで,強度の高い厚板が求めらている。これまで板厚38mm以下の鋼板が主流だったが,最近は板厚70mmを超える厚肉鋼板が増えているという。

 大型球形タンクの製作では,タンクの安全性を高めるために,溶接部の残留応力を緩和する応力除去焼鈍を実施する。ところが鋼板の厚肉化および現地施工化によって溶接補修回数が増加し,応力除去焼鈍にかかる時間が従来の8時間程度から20時間程度に及ぶケースが出ている。長時間化すると,一般に炭化物の凝集や粗大化が進んでミクロな組織が変化し,強度や靭性が低下してしまう。

 今回開発した鋼板は,応力除去焼鈍における強度低下を抑えるため,合金元素の添加を最適化した。また,低温でも高い靱性を確保できる高純度鋼の製造技術も取り入れている。この結果,これまで両立が難しかった長時間の応力除去焼鈍後における高強度,高靭性,溶接施工のしやすさを同時に実現できた。これにより,最大板厚72mmの鋼板に20時間の応力除去焼鈍を実施した場合でも,必要な性能を維持できるようになったという。