日本レコード協会(RIAJ)は2008年2月19日,インターネット上で音楽を配信する事業者向けに,レコード会社が認めた正規のWebサイトであることを証明する「エルマーク」の運用を開始した(図1)。
エルマークは,音楽配信サイトのトップ・ページや音楽ファイルを購入するページに表示させ(図2),レコード会社が正式に認めたサービスであることを示すもの。パソコン向け,携帯電話などのモバイル機器向けサイトの両方で使用する。レコード会社と配信契約を行った事業者が,RIAJの許可を得て使用する(図3)。RIAJはこのマークの商標登録を済ませているため,無断で使用した事業者に対してマークの使用中止が求められる。
RIAJ 情報・技術部部長 兼 法務部担当部長の畑陽一郎氏は,「配信事業者にとってエルマークの使用は強制ではないし今後も強制する予定はない。ただし『B to Bの(暗黙の)ルール』として各事業者が自主的に採用していくだろう」とした。
2008年2月19日現在,音楽配信事業者98社と音楽配信サービスを行っているレコード会社12社の計110社が運営する543のWebサイトで導入が決まっている。
携帯電話機からの無料ダウンロードが深刻化
エルマーク導入の背景について,RIAJ 私的録音委員会委員長代行 兼 違法配信識別ワーキングチーム座長の秦幸雄氏は,携帯電話機などモバイル機器から無料で楽曲をダウンロードするケースが増えていることを挙げる。RIAJが2007年11月に行った調査では,携帯電話機向けの違法音楽配信サイト*からダウンロードされた楽曲の数が,有料でのダウンロード数を上回ったという結果も出ている(プレスリリース)。
*違法にアップロードされた楽曲ファイルが手に入るWebサイトのこと。サイトを運営すること自体は違法ではない。ただし,個人のユーザーがそうしたサイトを利用し,レコード会社などの許可なしにファイルをアップロードする行為は違法であるため,ここでは「違法(音楽配信)サイト」と呼ぶ。
秦氏はこの結果について,携帯電話機から利用できる検索サイトや掲示板の普及が原因であるとする。携帯電話機向けの検索サイトで楽曲名やアーティストの名前を検索すると,簡単に違法音楽配信サイトが見つかることが問題だという。また,掲示板で違法サイトの情報交換が行われていることにも触れた。
さらに秦氏は,携帯電話機からのダウンロードの対象が,楽曲の一部である「着うた」から楽曲全体である「着うたフル」に変わってきていることを指摘する。同氏によると,着うたフルはレコード会社にとって,かつてのシングルCD(8cm盤)に代わる収入源となっており,無料でダウンロードされた場合の影響が大きいとした。
将来的には「違法性認識」の判断基準に
今後は,著作権法第30条の適用範囲が見直され,違法サイトからのダウンロード自体が違法になる可能性が高い(Tech-On!関連記事)。その場合,仮に法廷の場でレコード会社と違法サイトから楽曲をダウンロードした個人が争うような場合,その個人が違法性を認識していたかどうかが重要な争点の一つとなる。畑氏は,今回のエルマークが「違法性の認識」を裏付けるために役立つことを期待しているという。ただし,そのためには今後マークがどこまで普及するかが鍵になるという。