【図1】開発した電界紡糸装置で作成したナノファイバーのシート
【図1】開発した電界紡糸装置で作成したナノファイバーのシート
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【図2】開発したナノファイバーの不織布シート。展示品は150μmだが,1mm厚程度まで可能なことから基材が必要ないという。奥に見えるのがナノファイバーで試作したTシャツ
【図2】開発したナノファイバーの不織布シート。展示品は150μmだが,1mm厚程度まで可能なことから基材が必要ないという。奥に見えるのがナノファイバーで試作したTシャツ
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【図3】開発したナノファイバーで作成した手袋(右)。ウイルスなどは通さないが,空気を通す。左は既存の手術用手袋で空気を通さない
【図3】開発したナノファイバーで作成した手袋(右)。ウイルスなどは通さないが,空気を通す。左は既存の手術用手袋で空気を通さない
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 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は,ナノファイバー(nmオーダーの繊維)を効率的に製造できる大型電界紡糸装置の開発に成功,同装置の試作機で作成したナノファイバーのシートを国際ナノテクノロジー総合展「nano tech 2008」(2月13~15日,東京ビッグサイト)に出展した(図1)。

 電界紡糸法は,高分子溶液に高電圧を印加することによって溶液をスプレーして繊維化する手法。通常はノズルから溶液をスプレーするために生産性を上げるには,多数のノズルを配置する必要があり,装置も大型化してしまう。現在実用レベルでもっとも大型の電界紡糸装置は,ある韓国メーカーが導入している装置だが,4万本のノズルを備え,ライン長60mもの巨大な装置だという。

 これに対し,今回開発した装置ではノズルは使っておらず,「ある特殊なスプレーの手法を考案した」という。現状では,装置の詳細については一切明らかにしておらず,50件以上の特許を出願中だという。

 スプレー手法を革新したことにより,装置の大きさは実験室レベルの空間に配置できる程度だとなった。生産性としては,今回展示した1.2平方mのシートを10~20分で製造できる。既存のノズルタイプの装置では,1週間もかかるという。しかも,従来のノズルタイプの装置は爆発事故を起こしやすかったが,同装置は安全性も高いとしている。生産性が上がる分,コストダウンできるという特徴もある。

 同装置は,溶解できる溶媒さえあればどの高分子材料にも適用できる。今回展示したシートの材料は,ポリアクリロニトリル(PAN),ポリウレタン,ポリフッ化ビニリデンなど。繊維の直径は,チャンピオンデータとしては10~20nmまで可能になっているが,実用レベルでは100~300nmが適当だとみている。

 用途については,「世の中に存在するあらゆる高分子がナノファイバー化できることより,素材の第三次産業革命が起きるだろう」(NEDOの担当者)というほど期待が高まっている。まず考えられるのが,様々な産業分野で使われるフィルターである。ナノレベルでフィルタリングできる粒径をコントロールできるので,ウイルスなど微細な異物を除去する高性能フィルターが可能になるとみている。近年,半導体工場では集積度が高まるにともない,さらに微細な異物を除去したいというニーズが高まっており,そうした要求にもこたえられるとみている。

 また,150μm厚,将来的には1mm厚程度のシートが製造できる可能性があることから,手袋や衣服などにも使えると見る(図2)。例えば,手袋に使うと,ウイルスは通さないが空気は通す,通気性のよい手術用の手袋などが可能になるという。

 電子機器にも使えると見ている。例えば,同繊維を炭化させることにより,nmレベルで表面積の大きな燃料電池の電極材料などが有望な用途として挙がっている。

 同装置は,NEDOが平成18年度から5年計画でスタートさせている「先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」の一環。東京工業大学が中心となり,帝人,シナノケンシ,NEC,住友精化,大日本インキ化学工業,栗田工業,日本エアー・フィルター,帝人テクノプロダクツ,東洋紡績,日清紡績,グンゼが参加している。

 NEDOの担当者によると,同プロジェクトでは,すでに製造方法は確立したので,今後は予定を早めて,量産設備を開発し実用化検討をスピードアップさせたいとしている。