米Texas Instruments Inc.は,携帯電話機向けのアプリケーション・プロセサ「OMAP」の45nm世代版について,2008年2月3日から米国サンフランシスコで開催中の半導体回路技術の国際会議「ISSCC 2008」で発表した(講演番号13.2)。従来のOMAPで採用していた電源管理技術「SmartReflex」をさらに発展させ,フォーワード型およびバック型の基板バイアス(body-biasing)技術を全面的に導入した「SmartReflex2」を適用した。動作時の消費電力は,同じ性能の65nm世代版と比べて37%に低減させた。

 今回のLSIは,通信方式としてHSUPA/HSDPA,WCDMA,EDGE/GPRS/GSMなどに対応する。CPUコアとして840MHz動作のARM1176,DSPコアとして480MHz動作のTMS320C55x,240MHz動作の画像処理コアなどを搭載する。論理回路部の回路規模は,1000万ゲートである。

 従来のSmartReflexでは,もともと動的な電圧/周波数制御,SRAMの電源停止といった低消費電力化技術を盛り込んでいたが,今回,新たに「Forward-Body-Biasing(FBB)」,「Reverse-Body-Biasing(RBB)」,SRAM向けの「RTA(retention till access)」といった低消費電力化技術を投入した。FBBはある電源ドメインの基板部分に正電圧を印加し,トランジスタのしきい値電圧を下げ,一時的に高速化する技術,RBBは逆に基板部分に負電圧を印加し,しきい値電圧を上げ,リーク電流を一時的に抑える技術である。

 TI社によると,FBBで0.5V程度の基板バイアス電圧印加時に約20%の性能向上が,RBBで-0.5V程度の基板バイアス電圧印加時に約60%のリーク電流削減効果が,それぞれ確認できたという。基板バイアス技術では,回路技術だけでなく,どんなタイミングでどんな情報を基にして基板バイアス電圧を決定するか,そのアルゴリズムがカギとなるが,今回,同社は「LSIのユーザーである機器メーカーが,ソフトウエアで自由に設定できる」と述べるのみで,その詳細については言及しなかった。

基板バイアス技術の適用はツールで自動化

 TI社は今回,既存のRTLベースの回路をFBBやRBBに対応させるために,「SmartPriMer」と呼ぶ専用の自動化ツールを用いた。FBBやRBBといった電源管理技術に対応していない,既存のRTLのコードを同ツールに入力すると,ツール側が自動的にレベル・シフタやパワー・スイッチ,基板バイアスの制御回路,電源管理のためのステート・コントローラ,電源管理回路の検証用アサーション,UPF(unified power format)向けの仕様記述,などを挿入する。このツールを用いることで,通常は1カ月を要するこれらの作業を,わずか2日間に短縮できたという。

 なお,日経エレクトロニクスは3月10日号にて,ISSCCに関する詳報を掲載する予定です。