2月1日に提案が公表された米Microsoft Corp.による米Yahoo! Inc.買収(Tech-On!関連記事)。実のところ,この組み合わせは何度も噂に上っており,あまり大きな驚きはない。発表文でも「ここ18カ月,何度か協議してきた」というように,米Google Inc.を追いかける二つの企業が手を携えるというのもごく自然な流れだったと言える。

 それがなぜ,今なのかというと,大きく三つの要因がある。(1)Google社が好調である,(2)Yahoo!社の低迷が続いている,(3)Microsoft社の業績が好調である,という点だ。(1)は,先行するGoogle社が2位以下を引き離しにかかっている状況であることを意味している。そのことは(2)にも表れている。一方でYahoo!社には,いち早くインターネット向けのポータル・サイトを作り,この世界を引っ張ってきたという矜持も自負もある。当然ながら,自前でGoogle社に追いつき,追い越したいという意向であり,それが2006年に始まった協議がここまでまとまらなかった理由でもある。しかし,1000人のレイオフを余儀なくされるなど,同社の経営は芳しくない。

 それに対し,“巨人”Microsoft社は余裕がある。Windows Vistaや2007 Office Systemの売れ行きは好調であり,過去最高に近い業績を上げているからだ。ただ一方で,同社のビジネス・モデルは限界を迎えつつあるように見える。だからこの余裕があるうちに,次世代のビジネス・モデルへの転換を図ろうとしているのが現在のMicrosoft社と言えるだろう。

 同社はこれまで,インターネットを中核としたビジネス・モデルを構築するため,自力でさまざまなサービスを提供してきた。ディレクトリ型のポータル・サイトとして「MSN」,検索サービスを全面に打ち出したGoogle型のポータル・サイト「Windows Live」を自前で構築し,Yahoo!社やGoogle社を追いかけてきたのである。インターネット広告の技術を得るために,米AdECN,Inc.や米aQuantive,Inc.の買収も手がけた。だが現在のところ,その戦略はうまく行っているとは言い難い。まだインターネットにおいて,「Windows Live」も「MSN」も,ブランドとしては弱い。

 そこで「Yahoo!」ブランドを手に入れることで,インターネット広告のプレゼンスを高めていこうとしている。米国でこそGoogle社の後塵を拝しているYahoo!社であるが,ポータル・サイトとしては日本やアジアではGoogleよりも人気がある。インターネット広告の市場規模の大きさが米国ほどではないため,ビジネス的に厳しい面があるものの,ブランド力は決して衰えていない。

 現在価格に対して62%のという破格のプレミアを付けるということは,それだけ今回の買収提案にMicrosoft社が賭けている意欲の表れであり,買収は成立する可能性は高い。ただ,両社のWebサービスは重複している部分が少なくない。両者をいかに統合し,整理するのか。今後の舵取りが注目されよう。