最後の「Free Culture」関連の演説を行うLawrence Lessig氏
最後の「Free Culture」関連の演説を行うLawrence Lessig氏
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Lessig氏を紹介するCreative Commons社,Chairman of the Board of Directors兼ベンチャー投資企業ネオテニー,代表取締役 社長の伊藤穰一氏
Lessig氏を紹介するCreative Commons社,Chairman of the Board of Directors兼ベンチャー投資企業ネオテニー,代表取締役 社長の伊藤穰一氏
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4年間にCreative Commonsのライセンスで提供したコンテンツが急に伸びたと主張するLessig氏
4年間にCreative Commonsのライセンスで提供したコンテンツが急に伸びたと主張するLessig氏
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拍手している聴衆の様子
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 2008年1月31日,米Stanford University Law School教授であるLawrence Lessig氏が「Free Culture」に関する最後の講演を米Stanford Universityで行った。Lessig氏が提唱したFree Cultureは,インターネットなどのメディアを通じた,創作物の配布や変更の自由を求める社会運動である。Lessig氏は,創作活動の革新や著作物の柔軟な再利用を推進するライセンス「Creative Commons Public License(CCライセンス)」の普及と実践を進めている米国の非営利企業Creative Commons社(Tech-On!関連記事)の共同設立者でもある。今回の講演にはシリコンバレーのビジネスマンを含めて,多数の聴衆が集まった。

 Lessig氏は講演の中で,Creative Commonsに参加する人やCCライセンスを採用するコンテンツが増加している事実を指摘し,「Free Cultureを提唱した初期段階では私は未来を悲観していた。だが,現在の私は楽観主義者となった」と述べ,Free Cultureが一定の成果を挙げたとの認識を示した。Lessig氏は今後,米国の政治プロセスに組み込まれた「腐敗(corruption)」の研究に重点を移す考えだ。

 Lessig氏によると,彼が著作権の問題に関わったきっかけは,米著作権法の有効期限を20年間延長した法律「Copyright Term Extension Act」が1998年に成立したことだったという。米国憲法の成立以降,著作権は権限を拡大する一方だった。Lessig氏は,同法律が必要以上に著作権の権限強化をしており,米国憲法に違反すると考え,裁判に訴えた。この訴訟は米最高裁判所までもつれたが結局,敗訴した。

 現在,YouTubeなどのように,ユーザーが作成したコンテンツを扱うWebサイトが人気を集めている。ここでは「Read Write Culture(読み書き文化)」と同氏が呼ぶ新しい創造文化が登場しているとLessig氏は指摘する。「この文化は重要だ」とLessig氏は言う。具体例としてLessig氏は,いくつかの動画を組み合わせて再編集し,ユーザーが作成した作品を聴衆に見せた。「かつてプロの映画やテレビの制作者などだけに独占されていた手法は既にデジタル・ツールによって民主化されている。1500米ドルのパソコンを保有するなら誰でも新しい文化の創造や共有に参加できる」(同氏)。

 Read Write Cultureに参加し,盛り上げているのは主に若者であるという事実を踏まえ,こうした文化が今後,知識層に広がる「21世紀の書き」になるとLessig氏は指摘する。しかしその一方で,コンテンツ保有者の権利を拡大する現在の動向が,この新しい文化と衝突し,「文化戦争」と呼ぶべき係争を起こしているとする。「技術が創造性を拡大する機会を増やす一方なのに対し,法律はその機会をますます閉じている」(同氏)。

 Creative Commons設立の目的の一つは,この新しい文化の重要性を理解する創造者に新しいツールを提供することであった。2007年6月に開かれたCreative Commonsの会議に参加し,そこに集まった人数とその行動を見て,「この草の根運動はある程度成果を挙げた」とLessig氏は認識したという。しかしながらその一方で,方針を決める政府の側ではなかなか議論が進まない現状があると感じている。この障害になっているのは,政策決定プロセスに含まれる現在の制度を守る姿勢から発生するお金の流れであると考えている。「腐敗の問題が解決しないことには,文化の自由を含めた様々な政治的な問題は解決しない」(同氏)。Lessig氏の宣言に,ほぼ満席の会場に集まったシリコンバレーの視聴者は,総立ちの拍手喝采で応えた。