2007年1月30日,文部科学大臣の諮問機関である文化審議会に設けられた著作権分科会の第24回会合が行われた。著作権分科会の会合は今期はこれが最終となる。

 今回の会合では,著作権分科会の下に設けられた「法制問題小委員会」や「私的録音録画小委員会」,「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」などにおける今年度の審議経過報告が行われた。いずれの小委員会も議論がまとまらず,報告書を作成するに至らなかったため,来期に審議を継続することを要請する形になった。これに対して,各委員からは特に反対意見はなく,各小委員会の継続審議が事実上決まった。

 ただし,私的録音録画小委員会の議論に関しては主に権利者団体に所属する委員から,補償金制度を存続する形での早急な決着を強く求める声が相次いだ。

 例えば,日本音楽著作権協会(JASRAC)理事の岡田冨美子氏は「この議論は既に4年も行われている。結論が出るところから1日も早く対処してほしい」と述べた。日本芸能実演家団体協議会専務理事の大林丈史氏は「2008年6月には『ダビング10』対応の録画機器が発売される。つまり現実の方が先行している。5月中に結論を出すようなスピード感でやってほしい」と意見した。日本映画製作者連盟参与の迫本淳一氏や日本民間放送連盟専務理事の玉川寿夫氏などからも同様の意見が出た。

 日本レコード協会(RIAJ)会長の石坂敬一氏は同協会が2007年12月に公表した「違法な携帯電話向け音楽配信に関するユーザー利用実態調査 2007年版」の結果を挙げ,「違法着うたサイトからのダウンロード数は年間3億9900万ファイルで正規の売り上げに換算すると約860億円に相当する。これは正規の有料ダウンロード数である3億2700万回を上回る」と説明し,「違法ダウンロードの30条からの除外を速やかに行ってほしい」と強い調子で述べた。

 こうした意見に対して私的録音録画小委員会の主査を務める東京大学大学院法学政治学研究科教授の中山信弘氏は,「時間が掛かりすぎているというご批判もあるが,我々は単に政令をちょっと変えれば済むような話をしているわけではない。デジタル時代に対応した著作権制度の在り方まで含め,慎重に議論している。時間が掛かっている点に関してはご理解いただきたい」と状況を説明した。

 日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏や日本映画監督協会専務理事の後藤幸一氏からは,デジタル化の進展によってむしろ待遇が悪化している末端のクリエーターの窮状を訴え,「クリエーターを,一生食えない仕事していいのか。欧州のように社会的にクリエーターをバックアップする仕組みが日本にも必要」(瀬尾氏)とする意見が出た。

 これに対して中山氏は,「意見の趣旨は理解できるが,その改善のために著作権の制度の中で何ができるのか聞きたい。仮に補償金を充実させてもお金が回るのは売れている人。新人や売れていない人には回らない」と反論した。イプシ・マーケティング研究所代表取締役社長の野原佐和子氏からは「クリエーターの労働環境の問題は著作権とは別の場で議論すべき。末端が厳しいと言うが,他の世界だってそんなに甘くない。毎年,何百ものベンチャー企業が設立されるが残るのはほんのわずか。それを救う制度はない」とこうした意見を批判した。

 今回の会合で交わされた議論の多くは総じて,下部組織である私的録音録画小委員会において今期,何度か交わされ,それなりに決着が付いた議論を,改めて繰り返している印象を受けた。こうした状況に対して,明治大学法科大学院教授の青山善充氏は,「各団体の方々から出る生々しい意見を聞いて違和感を覚える。著作権はそもそも非常に弱く,侵害されやすい。さらに侵害に対し回復が難しい権利。そうした権利をどうすれば適正に守れるかが検討すべき議題ではないか」と苦言を述べた。