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HOMEエレクトロニクス機器 > 「本当はカメラにシャッターなんていらない」,カシオの超高速機,その狙いと先にあるもの(前編)

「本当はカメラにシャッターなんていらない」,カシオの超高速機,その狙いと先にあるもの(前編)

  • 大槻 智洋=日経エレクトロニクス
  • 2008/01/24 12:00
  • 1/1ページ
図1 EX-F1の外観
図1 EX-F1の外観
[画像のクリックで拡大表示]
図2 仕様表
図2 仕様表
[画像のクリックで拡大表示]

 カシオ計算機は2008年3月,デジタル・カメラ「EX-F1」を発売する(図1)。特徴はシャッター・チャンスを逃しにくく,H.264形式のフルHD(1080/60i)動画も撮れること。シャッター・チャンスを逃しにくいのは,連写速度が60フレーム/秒と速いため(1フレームは600万画素)。これまでは10フレーム/秒ほどが最速だった。

 さらにEX-F1は,肉眼ではとらえられない画像も撮れる(サンプル動画集)。1フレームを336×96画素にすれば,フレーム速度は1200フレーム/秒に達する。高価な工業用カメラでしか成し得なかったフレーム速度である。

 カシオ計算機は何を意図してEX-F1を作ったのか,商品企画を担当した中山仁氏(羽村技術センター 開発本部 QV統轄部 商品企画部 兼 第一開発部 部長)に聞いた。中山氏はカメラ業界を代表するトレンド・セッターで,「QV-10」から一貫して同社の商品企画を引っ張っている(聞き手=日経エレクトロニクス 大槻智洋)。

※EX-F1の詳細な特徴や仕様は,図2同社のWebサイトを参照してください。

唯一無二だからこそ

―― EX-F1は革新的なカメラですが,高価ともいえます。発売当初の想定価格は約13万円と,ニコンのデジタル一眼レフ機「D40x」を標準ズーム・レンズ付きで2台買えるからです。加えて,いろいろできるが故に適した用途がいま一つ分からないという声も聞きます。

中山氏 確かに価格だけを考えれば安くはありません。しかし,これは今までにないカメラです。ほかができない機能を実現しています。ここを評価し購入してくれる方は少なくないと確信しています。具体的には,高速なオートフォーカスを搭載したデジタル一眼レフ機でさえ撮れなかったものが撮れたり,肉眼ではとらえられないものが見えるたりすることに関心を持つ方々が買ってくれるはずです。

―― EX-F1に適した被写体として,スポーツをしている人や鳥などが考えられますが,民生用として群を抜く高速度撮影を可能にしただけに,もっといろいろありそうですね。

中山氏 CMOSセンサが吐き出す膨大な画像データをどう活用すべきかは,これからも研究し続けねばなりません。そのためには民生機器として,ある程度の数が売れることが必要です(本誌注:月産予定台数は1万台)。13万円という想定実売価格は,こうした今後の展開を踏まえて決めました。

―― 13万円なら利益が出るのでしょうか。開発費を今後の商品でも回収したとしても,やはり相当…

中山氏 正直「儲かります!」と言えるような値付けではありません。ただし,お金に直接換算できない効果は大きい。EX-F1を販売することで「カシオは最先端商品を作る」という印象を消費者に与えられます。

 コンパクト・カメラは,どんぐりの背比べのような競争をしています。台湾メーカーでも日本勢とさほど遜色ない商品を作れる。ブランド・イメージの向上は必須です。だからEX-F1に「EXILIM」ブランドを付けました。これまでの「『EXILIM=薄型』というイメージと違うじゃないか」という意見もありましたが,新しいもの,進化したもの,といった印象を消費者に与えるブランドにEXILIMをしていきたいです。

高速連写が第3世代デジカメを生む

中山氏 当社はEX-F1を第3世代のデジタル・カメラと位置付けています。現時点では少数のユーザーにしか響かない商品ですが,将来のカメラすべてに波及する機能を持つからです。それが高速連写であり,撮影の失敗を強く抑制できます。

 デジタル・カメラの第1世代は「QV-10」が切り開きました。そして第2世代を作ったのは「EX-S1」(初代EXILIM)でしょう。銀塩カメラでは実質不可能だったウエラブル化を実現したからです。

―― EX-S1以上にスゴかったのが「EX-Z3」ではないでしょうか。厚さ2cmほどの筐体に光学3倍ズームを押し込め,2型と大きな液晶パネルを搭載して,大ヒットしました。

中山氏 その通りです。ウエラブルという特徴だけに依存していたならEXILIMシリーズは続かなかったかもしれません。カメラ付き携帯電話機が急速に普及し性能を高めましたから。EX-Z3は,EX-S1の「薄型」を受け継ぎながら,本格的な撮影機能を備えた。コンパクト機のスタンダードになったと思います。

――高速連写機の分野でも,EX-Z3のような量を稼げる機種を投入しますか。

中山氏 EX-F1に実装した技術を普及価格帯の商品に展開することは,当然検討しています。ただ,それには時間がかかる。超高速CMOSセンサを使った商品は当分の間,「違いの分かる人」に向けることになります。

 時間がかかるのは,いろいろな問題がからんでいるからです。例えば45nm世代の画像処理LSIを開発すれば済むわけではありません。消費者のニーズに真に合致した用途を開拓しなければなりません。本体形状や目標価格帯も見定める必要があります。

 当社以外のカメラ・メーカーも高速連写機を発売する必要もあるでしょう。このジャンルの需要を喚起するためです。それに成功すればソニーを始めとした撮像素子メーカーは,一段と超高速CMOSセンサの開発に注力できます。

シャッター・ボタンが悪さをする

―― 少し話を戻します。第3世代のデジタル・カメラとはどんなものでしょうか。かねてより中山さんは「動画で撮った方が伝わりやすい場面は動画で撮ればいい。静止画で撮りにくければ動画で押さえればいい。動画と静止画の壁は技術の未成熟さに起因している」とおっしゃっていました。

中山氏 誰も彼もが所望の画像をスッと撮れる。これこそがカメラの理想形です。画像は,静止画でも動画でもいい。静止画は動画から取り出したものかもしれない。加えて将来のカメラは,ユーザーに「ここではこの静止画(または動画)を残してはどうでしょうか」と提案する機能も備えるでしょう。

 私は「息をひそめて決定的瞬間に合わせてシャッターを切る」という快感を否定するつもりはありません。ただ,多くの消費者にとって撮ること自体は目的でない。本当の目的は,撮影結果を自分で見て感動を再現したり,友人や家族に見せて共感してもらったりすることにあります。

 もっと言えばシャッター・ボタンは失敗写真を生む元凶の一つとさえいえる。ユーザーがシャッターを切らなければ手ブレなんか起きないし,カメラ側で正しくタイミングをとらえられれば決定的瞬間も逃さずに済むからです。

 カメラの自動化は着々と進んでいます。松下電器産業のデジタル・カメラが備えた自動設定機能「おまかせiAモード」も一例でしょう。ここに将来はEX-F1が備えた高速連写(シャッターの自動化)が合流していくのではないでしょうか。

――後編に続く――

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