「次世代PHSの実現に向け,社員が今,世界中を飛び回っている――」(ウィルコム 代表取締役社長の喜久川政樹氏)。

 ウィルコムは,春商戦向けの携帯電話機およびデータ端末の発表会(ITpro関連記事)において,次世代PHSの開発状況の一端を明らかにした。

 次世代PHSは,OFDMA(orthogonal frequency division multiplex access)とMIMO技術を活用し,下りで20Mビット/秒を目指す通信方式。総務省は2007年12月21日,ウィルコムに2.5GHz帯の事業免許を与えた(Tech-On!関連記事)。ウィルコムは2009年4月に日本で試験サービスを開始し,同年10月に商用サービスに移行する計画である。

 ウィルコムは次世代PHSの立ち上げに当たり,冒頭の喜久川氏の発言が示すように,海外企業との提携を積極的に進めている。

 提携の目的の一つは,基盤技術の開発を加速させることだ。ウィルコムは現在,海外の複数の半導体メーカーに,次世代PHS端末向けベースバンド・プロセサの供給を打診しているという。次世代PHSの通信方式は,変調方式にOFDMを採用するなどモバイルWiMAXと共通点が多く,モバイルWiMAXの開発ノウハウを生かせる。このため「モバイルWiMAX向けチップの開発メーカーを中心に声をかけている」(喜久川氏)という。

 端末の開発は,京セラ,三洋電機のほか,複数のメーカーが手掛けているもよう。ウィルコムは2008 International CESにおいて,Menlowプラットフォームに基づくUMPCのモックアップをIntel社ブースで出展し,話題となった。「(次世代PHS端末の)開発がここまで進んでいることをアピールするために出展した。開発メーカーや製品化の時期は,まだ明かせない」(喜久川氏)。無線基地局の開発は同じく京セラと三洋電機が担当するほか,Freescale社が基地局のリファレンス・デザインを開発している(ニュース・リリース)。

 海外企業との提携は,通信会社にも及ぶ。ウィルコムは2007年11月,タイでPHS事業を手掛けるAsia Wireless Communication社と,次世代PHSをタイで事業化する可能性を検証するための「共同検討」を実施する契約を交わした(ニュース・リリース)。このほか,中国でPHSサービスを展開する中国網通(China Netcom)社と,パケット通信のノウハウ提供などを含め共同研究を行っている。ただし,中国に次世代PHSを導入するには「(現在開発中の2.5GHz帯向けチップではなく)1.9GHz帯向けのチップを新たに開発する必要がある」(ウィルコムの関係者)という壁があり,このことから「仮に導入が決まっても,日本での導入よりは大幅に遅れる」(関係者)との見方がある。日本と中国で次世代PHSを同時展開し,端末や基地局の調達コストを引き下げる――といったシナリオを描くのは,現段階では難しそうだ。

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