一連の厳しい制約の結果として、パソコンで地デジを視聴するという需要はあるのに、製品の販売が抑制され市場が育たないという状況ができてしまった。Friioはまさに、この間隙を突いて出てきたわけである。グレーな領域に踏み出すリスクさえ目をつぶってしまえば、低コストの製品に高い価格を付けられ、砂地に水をまくがごとく売りさばける。それゆえFriioの出現は、現在の市場環境を考えれば必然とさえ言えるし、現状の課題を放置すれば第2、第3のFriioがいつ出ても不思議はない。

「良貨が悪貨を駆逐しなければいけない」

 それでは、第2、第3のFriioを出現させないために、何をすれば良いのか。抜本策の一つとして考えられるのは、ARIBの標準規格に沿った形でコンテンツを厳格に保護しながら、パソコンに外付けする地デジチューナーの単体販売を認めることだ。

 上述のように、現時点ではパソコン向けの外付けチューナーの単体販売はされていない。だが、映像データの不正コピーや、違法プログラムの出現といった放送業界の懸念を防ぐ技術は、現時点でも存在している。明らかに悪意のある機器は論外だが、あらゆるパソコン向け単体チューナーを危険なものとみなして一律に締め出している現状が、結果として市場のゆがみを生み出してしまっている。ARIBの標準規格とその考え方を十分に理解し、正当な形で単体チューナーを販売しようとするメーカーに対しては、放送業界も柔軟に対応すべき時期に来ている。

 単体チューナーを認めることの最大のメリットは、パソコンを買い替えることなく地デジを視聴可能にすることで、地デジの視聴者を飛躍的に増やせることである。「パソコンのUSB端子に外付けするワンセグチューナーは、現在のところ月4万台程度の市場規模があるとみている。つい最近発売した製品を除けば、録画したコンテンツのムーブさえできなかった。にもかかわらず、チューナー内蔵型の地デジテレパソを上回る需要がある。ハイビジョン画質の外付けチューナーを単体販売できれば、より地デジを視聴するユーザーを増やせるだろう」(バッファロー 事業本部 市場開発事業部 DHマーケティンググループリーダーの中村智仁氏)。また、2008年6月にも始まると言われるダビング10と組み合わせれば、元の映像データを残したままである程度の編集ができるようになり、メリットが拡大する。

 今までダメと言われていた外付けチューナーの単体販売を、放送業界が簡単に認めるだろうか。パソコン周辺機器メーカーの多くは慎重な姿勢を崩さない。だが、これも決して画餅ではない。

 総務省を中心に、地方自治体、放送業界、経済団体、メーカー、販売店、消費者団体などで構成される「地上デジタル推進全国会議」。同会議が2007年11月30日にまとめた「デジタル放送推進のための行動計画(第8次)」をひもとくと、「より低廉で多様な受信器の開発・普及の推進」という項目がある。ここには、次のような記述がある。

「地上デジタルテレビ放送の視聴を可能とするため、地上デジタルチューナー搭載パソコンはもとより、既存パソコンで地上デジタルテレビ放送を視聴可能とする周辺機器等の多様化に努める」

 外付けチューナーの単体販売も認めるという基本的な方針自体は、既にレールが敷かれているのだ。

 11月になって不意に湧き出た今回のFriio問題に対しても、浮き足立たずに本質的な対応を目指す声が放送業界内部から聞こえてくる。ある放送業界幹部は、毅然としてこう言い切る。「Friio対策とは、Friioをいかに叩くかということではない。ちゃんとした製品を、1台でも多くのパソコンの脇に広めることだ。良貨が悪貨を駆逐するという形にならないといけない――」。