文部科学大臣の諮問機関である文化審議会 著作権分科会傘下の私的録音録画小委員会の第15回会合が2007年12月18日に行われた。この席で,かねてから議論が続いていた著作権法第30条の適用範囲の見直しについて審議された。委員の一部から強い反対意見があったものの,「違法録音録画物または違法サイトからの私的録音録画」を著作権法第30条で規定された「私的複製」の適用範囲からは外す方針がほぼ確定した。また,コンピュータ・ソフトに関しても録音や録画と同様に,違法な複製物や違法サイトからの複製を適用範囲から外す方針も同時に示された。

 この見直し案は,いわゆる「ダウンロード違法化」問題として,注目を集めていたもの。ユーザーがWebサイトなどからコンテンツをダウンロードする行為を規制する目的がある。見直し自体,P2Pによるファイル交換や動画共有サイト,違法着メロ・サイトなどによる権利侵害を重く見た権利者サイドからの強い要望で検討が始まった。

 一方で見直しが実行されると,Webブラウザーによるコンテンツの閲覧自体が違法行為になる可能性が高くなり,インターネット利用の健全な発展を妨げるといった理由で,一部のユーザーから強い反対があった。この結果,「ダウンロード違法化」の方針を示した「私的録音録画小委員会中間整理(以下,中間整理,PDFファイルへのリンク)」に対する意見募集に,約7500もの意見が集まり,その大半がこの問題に対する反対意見という異例の事態になった(Tech-On!関連記事)。

 本日の審議でも,日本レコード協会専務理事の生野秀年氏や日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏から「レコード会社のビジネスはもはや立ち行かない状況。背筋が寒くなる」,「動画共有サイトに映画コンテンツがアップされると拍手喝采。まるでネズミ小僧を称える民衆のようだが,映画製作者は善良なクリエータで悪代官でも悪徳商人でもない」といった強い賛成意見が出た。また,日本音楽作家団体協議会理事長の小六禮次郎氏からは,「著作権全体から見ると保護はまだ不十分。権利者はこれまで言わなすぎた」といった賛成意見が出た。

 この一方で,IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏からは,「そもそも改正の必要性を全く感じない。ユーザーからは『権利者は(合法的な手段を用意するなど)やるべきことをやらないで保護強化ばかり求める』と見られている。権利保護を進める法改正で,ユーザーの心が映画や音楽やテレビから離れていっていいのか。日本国民は世界的に見てもまじめで,きちんとコンテンツにお金を使っている。多少のコピーは見逃していいんじゃないか」といった反対意見があった。また,主婦連の河村真紀子氏からも,「圧倒的多数の反対意見を軽々しく無視していいのか。多数決ではない,数は問題ではないというが,これだけの人が反対意見を提出した事実は重い」といった慎重さを求める意見があった。

 こうした議論を受けて,文化庁 著作権課の川瀬真氏は「意見募集に多くの反対意見が集まったことは重く受け止めているが,第30条の見直しは諸般の事情から避けられない。具体的な被害額に結びつくかどうかという点には異論はあるだろうが,現実に適法配信を超える規模の違法配信が行われている」と,見直しを進める方針を明らかにした。

 川瀬氏は,反対意見のほとんどが「知らないうちに法に抵触する」ことへの不安感に基づいているとして,利用者保護に十分配慮するとした。具体的には,刑事罰を付けない,法の執行は,違法複製物であると知ったうえで利用した場合に限るといった留保条件のほか,政府や権利者による法改正内容の周知徹底,権利者が許諾したサイトの情報提供,警告・執行の手順に関する周知徹底,相談窓口の設置,適法マークの推進といった項目を折り込む方針を示した。「権利者にも汗をかいてもらうことで,利用者の保護を徹底したい」(川瀬氏)。

 また川瀬氏は,刑事罰がないこと,民事訴訟の場合も権利者側に立証責任があることから,「ユーザーが著しく不利な状況にはならない」とする。一方で法改正の有効性については,「P2Pの利用者が減った理由の2位は『違法行為だから』だった。カジュアルな権利侵害の大半はこれで無くせると思う」とした。

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