放送業界関係者は、「FriioがB-CASカードの不適切な入手、使用を前提としているという点が問題。不正に入手したB-CASカードを使ってMULTI2を復号しているという点で、不正競争防止法の第2条第1項第10号違反に当たる可能性があると考えている。また、ユーザーがB-CAS社に虚偽の事実を申し出てB-CASカードを入手すれば、詐欺罪に当たる」とする。

 一方で、B-CASカードの扱いをめぐっては、ARIBの標準規格にも課題がある。例えば機器認証の仕組みが存在しないことだ。

 新世代光ディスクのBlu-ray Disc(BD)とHD DVDでは、コンテンツ保護技術としてAACS(advanced access content system)を実装している。これはAACS対応機器に対し、機種ごとに一意の復号鍵を割り当てるもの。不正な機器が出回ったら、その該当機種をブラックリストとして登録。市販されるBD-ROMやHD DVD-ROMの映像ソフトにブラックリストを書き込んで流通させる。不正な機器でそれらの映像ソフトを再生しようとする際に、その機器の復号鍵とブラックリストを照合し、ブラックリストに載っていれば復号鍵は無効であるとして再生させないというものだ。

 一方のB-CASカードでは、カード1枚ごとの管理はしており、例えばユーザーがB-CASカードを盗まれた場合、カード番号が分かればそのカードを無効にできる。しかし、特定の不正な機器で使われているB-CASカードを無効にするといった機能はなく、そもそもB-CASカードがどの機器で使われているかも把握できない。

 実はARIBの標準規格を定める際、機器認証についても検討はされていた。しかし、機器認証の実装が具体化することなく運用が始まり、今に至っている。現在のB-CASカードの運営システムは、B-CASカードは適正な機器に添付して貸与されるのが唯一の入手方法で、それ以外の手段でB-CASカードを不正入手する仕組みは存在しないというのが前提のシステムだ。しかし、B-CASカードの流用や転売、虚偽申請による再発行などが実際に横行し始めた。現状の運営システムでは、こうした非正規ルートでのB-CASカードの流通に対して全く無防備である。当面の対策として、B-CAS社による再発行審査が厳格化される見通しだが、状況が改善しなければさらなる対策が求められそうだ。

 このほかにも課題はある。B-CAS社とユーザーとの契約は、いわゆるシュリンクラップ契約である。B-CASカードの入ったフィルムの封を切った段階で、ユーザーは契約条項に合意したとみなすというものだ。かつてパソコンソフトのシュリンクラップ契約が問題になったように、ユーザーに一方的に義務を負わせる契約形態の有効性が問題になる可能性もある。