日亜化学工業は2007年11月,パルス発振で420mWを出力する青紫色半導体レーザと,連続発振で1Wを出力する青色レーザを発表した(Tech-On!関連記事1Tech-On!関連記事2)。いずれも「世界最高水準」(同社)と胸を張る。420mW出力の青紫色半導体レーザは,Blu-ray DiscやHD DVDといった次世代光ディスクにおいて2層12倍速,あるいは4層6倍速といった高速記録に対応できるとする。現在市場に出回っている品種は出力が大きくても200mWクラスなので,420mW出力は2倍近い大きさだ。1W出力の青色レーザはレーザ光源を使ったプロジェクターに向けており,従来に比べて出力を2倍に高めた。これら高出力レーザを開発した背景や採用した技術について,日亜化学工業が明らかにした。

420mW出力品の量産時期は2009年

 420mW出力の青紫色半導体レーザの製品化に向けた状況として日亜化学工業は,技術的には開発が完了した段階とする。寿命は5000時間以上を確保しており,電気特性といった製品の仕上がりは実用レベルに達しているとする。同社は2008年1月に250mW品の量産出荷を始め,1年後に320mW品,さらに1年後,つまり2009年には今回の420mW品の量産を始める計画を立てる。量産時期はかなり先だが,420mW品の開発完了を早々に公表することで,光ヘッド・メーカーや機器メーカーの高速記録への取り組みを促進させたい考えである。ただし,実際に420mW品を量産するには製造コストを下げるために製造技術を高め,歩留まりをさらに向上させる必要があるという。

 日亜化学工業によれば,出力250mW品が登場する以前は,次世代光ディスク装置の開発は「青紫色半導体レーザの『パワー律速』になっていた」(同社 第二部門 LD技術本部 LD開発部 部長代理の長浜慎一氏)。記録速度を高めようとしても半導体レーザの出力の制約があるために,高速記録に向けた機器開発の速度を高められなかったという。しかし,420mW品のように青紫色半導体レーザの出力が大幅に高まったことで,今後は以前のような「パワー律速」は起こらないとの考えである。2層12倍速あるいは4層6倍速といっても,まだこのような高速記録の規格は詳細に決まっていない。ただし,少なくとも420mWもあれば青紫色半導体レーザは高速化に十二分に対応できると強調する。

 今回発表した420mW品のしきい値電流は30mA,420mWは300mAで得られる。実際に製品化する段階でレーザの特性を機器の使用に合わせて調整したり,発光効率を若干高めたりといった変更を加えることになる。ただし,変更といっても今回の仕様値から大きくずれることなないとみる。

高出力化のキモは,COD抑制と1mm前後と長い共振器

 420mW品は高出力化するために,大きく二つの工夫を施した。一つは,レーザ・チップの端面破壊(COD:catastrophic optical damage)を抑制したこと。チップの端面はレーザ光を出射させたりする部分であり,レーザ光の出力が高まるほど端面は劣化しやすくなる。日亜化学工業は詳しくは明らかにしないものの,「コストアップしない範囲でCODを抑えられる技術を導入した」(同社 取締役 第二部門 LD技術本部 本部長で窒化物半導体研究所 所長の向井孝志氏)。

 もう一つは,レーザ発振させる共振器を長くしたこと。詳細な値は公表しなかったが,「赤色半導体レーザの高出力品は,共振器長が2mm程度にまで長くなっている。青紫色半導体レーザはそこまで長くない。赤色半導体レーザの半分程度」(日亜化学工業の向井氏)ということから,1mm前後のようだ。

 共振器が長くなるということは,チップ寸法が大きくなるということである。ウエハー1枚から取れるチップ数が減る上に,結晶欠陥の影響を受けやすくなることから歩留まり低下が懸念される。つまり,チップの製造コストは上がってしまう。この課題を解決するために,日亜化学工業はチップの幅(共振器が伸びる方向に対して垂直方向のチップの寸法)を狭くして,チップ面積をできるだけ大きくならないようにしているという。さらに,製造技術を高めることで歩留まりを高めたい考えだ。