図◎匠の大切さを説くスズキ会長の鈴木修氏。場所は東京都の新聞社ホール。
図◎匠の大切さを説くスズキ会長の鈴木修氏。場所は東京都の新聞社ホール。
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 スズキ会長の鈴木修氏は2007年12月5日,金沢工業大学が主催したシンポジウムで基調講演した(図)。テーマは「人づくり,ものづくり」。講演の中で同氏は「今,メーカーがほしいのは匠」と優れた技能者の需要を強調。これからは「班長でありながら,部長級の給料をもらう匠が生まれる時代になる」と,技能者の価値の高さを表現した。

 同氏が技能者の重要性に触れた個所は次の通り。

 「実は今,メーカーが最もほしい人材が,本当に優れた技能を持つ『匠』と呼ばれる社員だ。日本の工場はロボット化(自動化)されたため,発展途上国に設けた工場で働く社員を日本に呼んで教育しようにも,対応できなくなっている。例えば,自動車をぶつけると車体の鋼板が凹む。これを工具でうまく叩いてきれいに直せるような技能者が日本にいなくなってしまったからだ。日本では凹んだ部品ごと取り替えられるが,発展途上国ではそれができない。これは一例に過ぎないが,こうした優れた技能を持つ匠が必要だ。

 日本では多くの人が,班長,組長,係長,課長代理,課長,部長という階級を上がっていく人間が偉いと思っている。だが,これからは,『万年班長』であっても部長と同じ水準の給料を払う時代になってくる。

 今や『大学全入』の時代。大卒の社員が珍しくなくなり,大卒の特権意識などなくなった。そうなると,自分が優れた技術を備えているか否か,本人にやる気があるか否かがすべてを左右することになる。つまり,単にとんとん拍子に階級を上がっていくという行政職的な発想ではなく,匠として自分の腕を磨いていく道が選べる時代になってきたということだ。

 大卒のホワイトカラーよりも,匠の方がよほど重用される時代がやってくる。そのとき初めて,日本で人づくりとものづくりが完成すると私は思っている」──。

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