図1 新材料の温度と電気伝導度の関係。DSCは,可逆的な吸熱・放熱反応を指す。
図1 新材料の温度と電気伝導度の関係。DSCは,可逆的な吸熱・放熱反応を指す。
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図2 LiBH4の115℃以下の結晶状態(a)と115℃以上の結晶状態(b)。青丸がLiイオン,三角錐がBH4イオン。(a)は,Liイオンの動きがBH4イオンで邪魔されているが,(b)はその邪魔が少なくなり,Liイオンが劇的に移動しやすくなる。
図2 LiBH4の115℃以下の結晶状態(a)と115℃以上の結晶状態(b)。青丸がLiイオン,三角錐がBH4イオン。(a)は,Liイオンの動きがBH4イオンで邪魔されているが,(b)はその邪魔が少なくなり,Liイオンが劇的に移動しやすくなる。
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 東北大学は2007年11月29日,固体状の水素貯蔵材料の電気伝導度が115℃を境に劇的に変化して,イオンがキャリアになって高い電気伝導度を備える「超イオン導電材料」になる現象を発見したと発表した。水素貯蔵材料は,リチウム・ボロハイドライド(LiBH4)という固体材料。東北大によれば,今回の材料を,Liイオン2次電池の電解質に適用できれば,電解質を完全に固体にでき,同電池の安全性を高められる可能性が出てきたという。

 今回の現象を発見したのは, 同大学 金属材料研究所 准教授の折茂慎一氏,同大学 工学研究科 准教授の前川英己氏および准教授の高村仁氏氏の研究グループである。

相転移の前後で電気伝導度が3ケタ近く変化

 同グループは,LiBH4の結晶に交流電圧を印加しながら,温度を変化させた。すると,115℃(388K)を境に結晶構造が変わるとともに,電気伝導度が数百倍も変化することを発見した。具体的には電気伝導度が,115℃よりやや低温では10-5S/cm以下だったが,115℃をわずかに超えると10-3S/cmを超える値に跳ね上がる(図)。温度を低下させる場合は,115℃を境に電気伝導度が1/1000近くに減少する。

 原因を解析した結果,同グループは,この電気伝導度の変化がLiイオンの結晶中での移動度の変化によるものだと結論付けた。理由には,(1)LiBH4は絶縁体で電子はほとんど流れない,(2)LiBH4の中のホウ素(B)と水素(H)は共有結合により安定的に結びついている,(3)核磁気共鳴(MRI)法でLiイオン間の距離などを解析し,Liイオンがキャリアになると仮定した場合に電気伝導性を見積もった値と今回の測定結果が一致した,ことなどを挙げる。

 超イオン導電性は,ヨウ化銀(AgI)などで以前から知られている。「AgIと同様,ある割合で結晶の元素を別の元素に置き換えたりすることなどで,この超イオン導電材料となる温度をより低くできる可能性がある」(東北大 准教授の高村氏)。

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