図1 トヨタ自動車の「電子化に対する取り組み」について講演する同社 常務役員の重松崇氏
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図2 各国の交通事故の状況
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図3 プローブ情報を使ったサービスを展開中。主要都市では十分な情報を収集できているという。
図3 プローブ情報を使ったサービスを展開中。主要都市では十分な情報を収集できているという。
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図4 デバイス技術の中でも重要な技術は内製する
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図5 パワー半導体技術の概要
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図6 MEMS技術を使ったヨーレイト・センナの概要
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図7 電源回路や入出力回路などをASIC化する取り組みの概要
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図8 ソフトウエア技術者のスキルを標準化して評価する取り組み
図8 ソフトウエア技術者のスキルを標準化して評価する取り組み
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 トヨタ自動車 常務役員の重松崇氏は,「組込みソフトウェア開発におけるトヨタ自動車の挑戦」と題した講演を「Embedded Technology 2007(組込み総合技術展)」(パシフィコ横浜,2007年11月14~16日)で行った(図1)。今回の講演は,組み込みソフトウエア開発というテーマを掲げてはいるが,実際は組み込みソフトウエア開発を含む,同社の電子技術開発全体について説明するものとなった。

中国での安全技術,まずは電気よりメカで

 自動車を電子化する目的の一つに,安全技術の向上がある。同氏はまず,世界の地域ごとに,電子化による安全技術をどのように展開していくのかを述べた。同氏によると,世界の全ての地域に電子化による安全技術を搭載した自動車をすぐに投入するつもりはないという。理由として地域ごとの交通事故状況の違いを挙げ,特に中国を例にとって説明した。

 交通事故件数は日米欧では減少や横ばいであるのに対し,中国では急激に増加している(図2)。中国で事故件数を減らすには,電子化による安全技術を搭載した高価な自動車を投入していくよりも,まずはメカ構造を工夫して衝突安全性などを高めるといった比較的安価な安全技術を搭載した自動車を普及していくことが重要との認識を示した。その後,制動時にタイヤのロックを防止するABS(anti-lock brake system)や,横滑り防止装置などの電子化による安全技術を搭載した自動車を投入していく考えだという。

 欧米については,今後,横滑り防止装置が法制化する動きを挙げ,その動きに備える必要性を示した。

交通渋滞にはプローブ情報を活用

 次いで,自動車の電子化に対する同社の取り組み事例を順に挙げていった。ハイブリッド車による燃費向上の重要性や,横滑り防止装置などの安全技術に対する取り組み,インフラと自動車を協調する路車間通信などである。そうした中で同氏は,同社が2007年6月に発売した「プレミオ」「アリオン」から実用化している自動車のプローブ情報を使った交通渋滞緩和サービスについて特に言及した。プローブ情報とは,自動車を「走るセンサ」に見立てて,各車両の位置や速度といったデータを情報収集センターに適宜送ることで蓄積した情報である。通信には携帯電話機や専用の通信モジュールを使う。この情報を使って,精度の高い渋滞情報などをカーナビに送信する。現在,このプローブ情報を活用する自動車が全国で2000台程度走行しており,「全国主要都市の交通情報は十分に集まっている」(重松崇氏,以下の発言は全て同氏)(図3)。ただし,全国の交通情報を集めるには「1万台程度の自動車が必要で,さらなる普及が必要」という。

 同氏はプローブ情報を使ったサービスの課題にも言及し,情報収集センターと自動車間での通信に掛かる費用をユーザが負担している点を挙げた。プローブ情報を使ったビジネス・モデルは,ユーザが通信費を払う対価として,高精度の渋滞情報などを受け取るというものである。このビジネス・モデルでは,ユーザの「善意によって成り立つ」要素も大きい。このため,「さらに普及を進めるにあたり,このビジネス・モデルを多くのユーザに受け入れてもらえるかどうか分からない」と語り,「国の施策として実施するべき技術かもしれない」と述べた。

「パワー半導体はガソリン・エンジンと同じ位置付け」

 電気自動車の開発にとって重要となる,デバイス技術の開発方針についても説明した。デバイス技術の中でも特に,パワー半導体やMEMSセンサ,ASICといった制御ICを重要な技術と捉えており,自社やグループ企業などで内製していく方針だという。特にパワー半導体については「技術の重要性はガソリン・エンジンと同じ位置付け」と語った。

 同社では,内製する技術を決定する際に,技術発展度の大小という軸と,車載専用機能か標準汎用機能かという軸で,4領域に分けて考えている(図4)。技術発展度が大で,車載専用機能の領域に該当する技術を内製する方針で,パワー半導体(図5)やMEMSセンサ(図6),制御IC(図7)が該当する。具体的なパワー半導体としてはSiCやGaN素子を使ったインバータ・モジュールなどを挙げる。MEMSセンサとしては,ヨーレート・センサや加速度センサがある。制御ICとしては,自動車向けのノウハウが必要となる電源回路や入出力回路,通信回路などという。

組み込みソフト開発,重要なのは技術者の「モチベーションと倫理観」を高めること

 同氏は冒頭で「数年前は自動車にソフトが本当にいるのか,という雰囲気だった」と述べ,ここ数年間で急激に自動車の組み込みソフトウエア開発の重要性に対して認識が広がっていることを指摘した。そして,現状に対する危機感を表す例として,自動車に搭載する電子制御ユニット(ECU)におけるソース・コードの容量を示した。例えば,エンジン制御系で1~2Mバイト,ボディー制御系で500kバイト~1Mバイト,情報系でギガ・バイト・オーダであると言う。そして,「私が入社した頃を考えると,高い信頼性が要求される自動車の組み込みソフトウエアで,1Mバイトのソース・コードになるのは信じられない」という表現で,組み込みソフトウエアが大規模化している現状を示した。

 大規模化する組み込みソフトウエア開発への対策として,開発プロセスをコンポーネント開発からモデルベース開発へ,そしてプラットフォーム開発へと移行していくことを述べた(Tech-On!関連記事)。

 さらに組み込みソフトウエア開発の重要な点として,ソフトウエア技術者の育成を挙げる。現在,ソフトウエア技術者のスキルを標準化して評価するという取り組みが行われている(図8)。ところが,こういった活動では,エンジニアのモチベーションや倫理観といった要素は計れない。同氏は,この計れない要素にこそ「組み込みソフトウエアの質に大きな影響がある」と述べ,技術者のモチベーションや倫理観を高めていくことの重要性を強調した。

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