図1 公開質問状の内容を説明する実演家著作権隣接センターの椎名和夫氏
図1 公開質問状の内容を説明する実演家著作権隣接センターの椎名和夫氏
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図2 JEITAに送付する公開質問状
図2 JEITAに送付する公開質問状
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 テレビ番組や映画,音楽などのコンテンツの著作権に関連する権利者団体が2007年11月9日に記者会見を開き,電子情報技術産業協会(JEITA)に対して公開質問状を同日付で送付すると発表した(図1)。

 「私的録音録画補償金制度の見直しの議論におけるJEITAの真意が分からない」(実演家著作権隣接センターの椎名和夫氏)として,その真意を問うために公開質問状という手段を選んだ。日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本芸能実演家団体協議会,日本映画製作者連盟など28団体で構成する「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」と,それに賛同する日本芸能実演家団体協議会加盟の59団体の連名で作成し,2007年12月7日までの回答を求めた(図2)。

異なる場で進んだ議論

 この公開質問状は,「コピーワンスルールの改善に関する,消費者,メーカー,権利者,放送事業者の合意事項と,私的録音録画補償金制度に関する貴協会のご主張との関連について,お尋ねしたいことがあります」と始まる。地上デジタル放送の「コピー・ワンス」見直しの議論と,私的録音録画補償金制度見直しの議論は,異なる場で並行に進んできた。

 コピー・ワンス見直しの議論は,総務大臣の諮問機関である情報通信審議会が開催する「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」で行われ,最初の録画と9回までの1世代のみ複製を許可する,いわゆる「ダビング10」への緩和の方向が2007年8月に示された。また私的録音録画補償金制度見直しの議論は,文部科学大臣の諮問機関である文化審議会が開催する「私的録音録画小委員会」で行われ,2007年10月に「私的録音録画小委員会中間整理」という形で公表された(2007年11月15日まで意見募集中)。

 権利者団体の代表者の一人としてデジタル・コンテンツ流通の委員会に参加していた椎名氏は,「コピー・ワンスの緩和に関する合意は,私的録音録画補償金制度の存続が前提」と主張していた(関連記事1)。一方JEITAは,私的録音録画小委員会の中間整理に対して「補償の必要性に対する議論が尽くされていない」「著作権保護技術が用いられているデジタル放送だけになる2011年以降は,録画に対する補償金は不要だ」などとする見解を発表している(PDF形式の発表資料関連記事2)。

コピーの「適切な対価」は補償金で

 今回権利者団体が公開質問状を送ることを決めたのは,「JEITAはコピー・ワンス見直しの議論の中では補償金制度の存続に関する我々の主張について何も言わなかったのに,補償金制度の議論の中で急に『補償金制度が不要』と言い出した」(椎名氏)ためだという。「メーカーの利益を守るのがJEITAの役割なのだとは思うが,本当にメーカーがそれを望んでいるのか。コピー・ワンス見直しの議論で着地点が見つかりそうなときに,最後まで『EPNしかあり得ない』と主張し続けていたJEITAには疑念を持っている」(椎名氏)。JEITAは私的録音録画小委員会では継続的に主張してきたものの,「JEITAは一貫性がなく,何を考えているのか分からない。我々は情報通信審議会と文化審議会の両方で一貫した主張をしてきた。どちらかの審議会の判断にもう一方が従わなければならないという決まりはないが,だからこそ同じことを言い続けてきた」(椎名氏)とする。

 権利者団体は,情報通信審議会が2007年8月にまとめた,「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」の第4次中間答申の中で,コピー・ワンスの緩和の前提条件として「コンテンツを尊重し,これを適切に保護すること」と「その創造に関与したクリエーターが,適正な対価を得られる環境を実現すること」の2点について配慮すべきであると示されていることを理由に補償金制度の存続を求めている。例えば日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏は,「映画製作者連盟は,第三者による複製は禁止という立場を取っている。その例外が無料の地上テレビ放送であり,その対価を補償金でカバーしている。究極のバランスの上に成り立った仕組みであり,不当な要求をしているとは思わない」とする。「タイム・シフトやプレース・シフトを自由にできるようにしたいというのは,権利者団体の願いでもある。消費者やメーカー,権利者らのそれぞれが抱えている課題をうまく解決しているのが補償金制度だ。金額的にも低いし,メーカーはフランスなど欧州では補償金を支払っている。なぜ日本だけは不要と主張するのか分からない」(JASRAC 常任理事の菅原瑞夫氏)。

コピー・ワンスのままだったら?

 記者会見の質疑応答で,「ダビング10への緩和の場合は補償金制度が不可欠とのことだが,コピー・ワンスのままだったら補償金制度は不要なのか」という本誌の質問に対し,椎名氏は「その判断は権利者団体ごとに異なるだろう。しかし,権利者がコピー・ワンスの緩和に前向きに取り組んだのは,ムーブ(録画したコンテンツの移動)の失敗によってコンテンツが消えてしまうといった問題があるという不完全なシステムだったからだ。今さら『コピー・ワンスのまま』という選択肢は考えにくい」とした。さらに「我々は文化の発展には一定の譲歩が必要だということをコピー・ワンス見直しの議論で学んだ。しかしJEITAはそれについて来てくれていない」(椎名氏)とJEITAが同じ主張を繰り返していることを批判した。

 公開質問状は,以下の7項目について質問している(本誌による要約)。
(1)私的録画補償金制度を否定するリリースを出したということは,コピー・ワンスの緩和に関する合意を破棄するものと理解してよいか
(2)合意を破棄することについて,緩和を待ち望んでいる消費者にどのように説明するのか
(3)私的録画補償金に関する考えを中間答申案策定の時点でなぜ主張しなかったのか。なぜ今になって主張するのか
(4)「技術的保護手段による複製制限を施してコンテンツを提供する場合はどのような複製が行われるか権利者は予見可能であり,権利者の経済的不利益は存在しない」と主張しているが,複製が予見可能であることと経済的不利益が発生しないということがなぜ結びつくのか
(5)音楽CD(からの録音を想定したMD機器など)には「SCMS」という技術的保護手段による複製制限が施されており,私的録音補償金による補償が行われてきた。なぜ録画だけが補償の必要がなくなってしまうのか
(6)10回までの私的領域での複製で発生する経済的な不利益に対して補償の必要がないというのであれば,どのような複製で発生する不利益が補償の対象になるのか
(7)コンテンツとハードウエアはコンテンツ大国実現のための両輪であるとされる。本来互恵関係にあるべき両者が協力すればさらなる成果が期待できると考えているが,補償金制度に関してJEITAの態度は一貫して頑なであり,かつ敵対的だ。より良い関係を実現するために,ともに手を携えることはできないか