東京工業大学 精密工学研究所 客員教授の大嶋洋一氏は,2007年11月6日に開かれた「第4回東京工業大学精密工学研究所知財シンポジウム」で講演し,対象とする技術分野の規模と,半導体技術との関連性(距離感)を特許情報に基づいて定量化する分析手法について説明した。例えば,半導体技術を強みに異分野に事業展開したいと考えている企業の場合,技術規模が大きくても半導体分野から縁遠い分野では強みを発揮できない可能性が高い。こうした状況を特許情報から定量化し,判断材料にしていく。

 特許面で見た技術の規模は,「SPレシオ(semiconductor patent ratio)」という指標で表す。これは1年間に米国で登録された特許のうち,対象とする技術キーワードを明細書の中に含む特許の件数を,「Semiconductor」を含む特許件数で割ったもの。SPレシオが1よりも大きければ,半導体分野よりも特許件数が多いことを意味する。2006年のデータでは「Display」が1.36,「Automobile」が0.89などとなる。

 一方,半導体技術との関連性は「TCディスタンス(technology coupling distance)」という指標で表す。これは「Semiconductor」を含む特許のうち,対象とする技術キーワードも同時に含む特許の割合を逆数で表したもの。特定キーワードを含む割合が50%だった場合はTCディスタンスが2,100%だった場合は1となる。2006年のデータでは「Computer」が1.76,「Display」が3.73などとなる。

 さらに,技術規模が大きく,技術間の距離が小さいほど,それぞれの技術は互いに強く引き合うことに注目し,「技術的引力(technology gravity)」を定義した。これは,技術Aの特許数×技術Bの特許数/(A-B間のTCディスタンス)2で計算する。技術Aを「Semiconductor」とすれば,半導体に対する技術的引力になる。例えば,半導体に対し「Computer」の技術的引力は非常に高い。最近では「Automobile」「Cellular」「TV」「Camera」「Game」の技術的引力が高まっているという。

 こうした指標を利用し,半導体技術を持つ企業が「Solar Cell(太陽電池)」と「Fuel Cell(燃料電池)」のどちらの分野に進出すべきかという検討事例を紹介した。それによると,燃料電池に比べて太陽電池の方が半導体との技術的距離感が近く規模も大きい。従って技術的引力も強い。ところが,技術的引力の時間的な成長率に着目すると,燃料電池の方が圧倒的に高かった。このことから,燃料電池の方が研究開発の余地が大きく,技術的な差がつきやすいとする。特に最近ではMEMS(micro electro mechanical systems)を活用した燃料電池関連の特許が増加傾向にある。ただし,TCディスタンスは大きく離れているため,やや長期的な取り組みが必要である。一方,太陽電池は技術革新の余地がそれほど大きくなく,製造ノウハウなどに強みを持つ企業に向いているとした。

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