さて,今回製作するものを説明すると,ボタンを押すとスピーカから音が鳴る,という非常に簡単な工作だ。ボタンは12個。「ド」の音から「シ」の音まで1オクターブ分で,シャープやフラットの音も出るようにする。すなわちピアノの白の鍵盤も黒の鍵盤も用意した格好だ。

 では,回路としてどうつなぐかだが,仕組みは簡単。マイコンだが,入力には四つのポート,出力には三つのポートを利用する。入力の四つのポートからはそれぞれ三つずつのボタンに配線する。そして出力のポートにはそれぞれ四つずつのボタンからの配線をまとめてつなぐ。こうすることで,3×4=12通りの組み合わせができる。入力,出力のポートを監視すれば,マイコンはどのボタンが押されたかが理解できるわけだ。ボタンを認識すれば,それにあった周波数の音を,タイマ機能を使ってスピーカから流すようにする。

 まずは,「部品を配置することから始めよう」(元技術者の同僚)ということで,プリント基板へ部品を差し込むことから始める。差し込むのは12個のタクトスイッチ,そして逆向きの電流が流れることを抑制するためのダイオード12個。ガラスエポキシ製のプリント基板は,規則正しく穴が開いており,裏を見るとそれぞれの穴を中心として丸いパターンが形成されている。これを「ランド」と呼ぶそうだ。このパターンを部品とはんだ付けすることで回路を作っていくので,部品は表から挿入していく。


プリント基板に部品を挿入していく。ダイオードは予めリード線を折ってから挿入するとうまくいくらしい

 仕様書の写真とおそらく同じサイズの基板を買ったので,機能を省いた分,部品は余裕を持って取り付けても問題ない。そこで,横幅を有効に使ってタクトスイッチとダイオードを挿入。この方が,はんだ付けの作業はしやすいだろう。その分,配線などは長くなる可能性はあるが。

 さて,部品の挿入が終わり,いよいよはんだ付けだ。いきなりはんだごてを持たされても使えるわけがない。ここは一つ,元技術者の同僚にお手本をお願いする。「いやー,久し振りだなー」とか言いながらも,慣れた手つき。うまい。ランドと部品のリード線の間にはんだがなじんでいくように溶けていく。「前もって暖めてそこにはんだを近づけてやればいいんだよ」。よーく見ると,まずランドとリード線を同時にこて先で暖め,すかさずはんだを供給している。


同僚の手元をじっと見る。昔,かなり先輩に仕込まれたらしく,さすがにうまい

 「母材の方を暖めて,はんだは直接こてに当てないんですよねー」と,先ほど仕入れた知恵を同僚に披露してみる。「あんまり気にしてないけどね。それより,基板を暖めすぎちゃうと,ランドが剥がれてやっかいなことになっちゃうよ」。そんなことは講座には書いてなかった。

 バトンタッチ,同僚に代わってはんだごてを手に取る。まずは1発目。ランドとリード線をこて先で暖め,すかさずはんだを供給する。はんだはこてに当てないというよりは,こて先を通ってリード線やランドになじんでいく感じだ。まずはうまくいったようだ。お手本よりは,若干はんだの量が少ないように感じるが,「うまいじゃない」と同僚にも合格点をもらう。


はんだ付け開始。久しぶりなのでかなり緊張する

 そして2回目。すると,今度ははんだがもろにこて先にくっついてしまい,それを無理矢理パターン側にのせる。すると,リード線に巨大なはんだの固まりが。「典型的ないもはんだができたねー」と同僚は大笑い。はんだはランドには付かずに,リード線上でかたまってしまったらしい。自分では直せないので,修正を依頼する。

 このようなことを繰り返すうちに,とりあえず部品がプリント基板に固定される。次は回路図通りにつないでいくのだが,まずは出力ポートにつなぐために四つのダイオードのリード線を接続することを考える。ダイオードのリード線は規則正しく並んでおり,リード線の間にはプリント基板の穴が三つ空いている。この間をどうつなぐのかだが,「練習も兼ねて全部はんだを盛ってっちゃおうか」ということではんだでつなぐことに。

 簡単なようで,これが結構難しい。部品が挿入されていない穴のランドにもはんだを盛り,盛ったはんだの間にさらにはんだを盛ることで二つ穴周りのランドをつなぐ。ところが,この場合は母材がはんだになるわけで,母材を先に暖めると足すはんだの前に根元がゆらいで,うまく間をつなぐことができない。微妙に足す方のはんだを先に暖める必要がある。うまくいかないと,大きなはんだのかたまりが一つの穴の上のランドにできてしまったりする。


ダイオードのリード線をはんだでつなげる。実はランドが剥がれた個所もある

 悪戦苦闘しているうちに,ある穴の周りのランドがすっかり取れてしまったようだ。恐れていたことが現実となる。とはいっても,同僚は慌てることなく,「じゃー,リード線でつないじゃおう」ということで,ランドの取れた穴の上をまたぐように,両隣の穴同士をリード線ではんだ付けする。リード線は,ダイオードをはんだ付けしたあとに,はみ出ていた分をニッパで切ったもの。見事に補修できた。パチパチパチ。(次のページへ