今年ほど,“ニュー・デバイス”が期待とリアリティを持って歓迎されている年はない。そこで「画質」に焦点を当てたセミナーを,10月24日~26日の「FPD International 2007フォーラム」の「高画質2007」で開催した。3日目午前のセッションPA-5「ニュー・デバイスの新画質とは?~有機EL/FED/無機EL,新デバイスで次世代高画質に挑戦」である。単に技術的な先進性だけでなく,新しい画質が得られることこそが,ニュー・デバイスの存在価値である。そこで,有機EL,FED,無機ELのニュー・デバイスの3大スターが集結して,その「新画質」の秘密を開陳した。

有機ELの画質の秘密

 トップ・バッターは,世界で初めて11型の有機ELテレビを発売するソニーで,パネル開発に当たった関谷光信氏である。自慢の有機ELの画質の秘密について述べた。TFT基板と反対側に光を取り出す「スーパー・トップ・エミッション構造」から得られる画質におけるメリットは,高効率,高コントラスト,高色再現の三つである。

 「高輝度だけでなく,小面積の突き上げがあることが,有機ELの強みです。全体が暗い中で,部分的にキラリと光らせることができるのが,有機ELの特徴です。独自のマイクロキャビティとカラー・フィルタの相乗効果によって,光の損失を最小に,パネルの外光反射を低減することに成功しました」と関谷氏は言う。

 画質については,「γ特性は通常の放送の2.2乗に近い2乗のカーブを持つので,使いやすくて有利。応答速度はマイクロ秒のオーダーであり,極めて高速。液晶と異なり,温度への依存性が小さく,低温でも高速。コントラスト特性は,全白/全黒では100万:1。ウィンドウ表示では4200:1(液晶は1100:1)」(同氏)と言う。「どの明るさでも液晶のコントラスト比を上回っている」(同氏)とする。

 さらに視野角によるコントラスト特性,低輝度でのコントラスト特性のいずれも液晶,プラズマ・テレビをかなり上まわっていることを,関谷氏は明かした。これが,有機ELテレビがきれいに見える理由だという。液晶は暗い画面では色の鮮やかさが落ちるのに対し,有機ELは原理的にそうした不都合はない。信号の階調による色再現についても,有機ELは非常に恒常的で幅広い階調において色純度が高いことを,同氏は訴えた。

 会場からの「なぜ全白/全黒ではコントラスト比が上がるのか。逆に,なぜウィンドウ・パターンでの測定では値が下がるのか?」という質問に対し,関谷氏は「液晶のクロストークとは違います。発光した光が素直に表面に出ているのではなく,離れたところでの漏れ光が原因なのではないかと思っています。この値がコントラスト比的な問題とは思っていません」と答えた。

 「マイクロキャビテイ構造のメリットは理解したが,大型化したときに面内の均一性を保てるのか」という質問には,「それは設計と製造技術の問題です。かつて学会(SID)で13型のディスプレイを展示したときには,誰もユニフォーミティについては言及していませんでした。マイクロキャビテイのことは言っていませんでしたからね。でもマイクロキャビテイを公表した途端,皆チェックを始めました」という愉快な話を明かした。

FEDの次世代画質への挑戦

 2番目は「FEDで次世代画質にチャレンジ」というタイトルで,エフ・イー・テクノロジーズの監物秀憲氏が講演した。同社のFEDは素晴らしい画質である。まさにブラウン管(CRT)の延長ともいえる非常にナチュラルで目に優しい映像であり,同時に細かいところまで見えるヒューマンな精細感である。その高画質の秘密を監物氏は次のように説明した。

 「ナチュラルな画質ではFEDがナンバー・ワンと自負しています。信号を作り込むのではなく,入ってきた信号をそのまま見せることで,高画質にしています。自発光で高速応答なので,インパルス応答の駆動に必要な輝度が出せます。デバイスのγ特性が指数関数的で,階調再現が容易なこともメリットです。固定画素であり隣接画素のクロストークがないので,ブラウン管より周辺フォーカスは優れ,ミスコンや色ズレがないことも挙げられます。現在の画素ピッチは0.3mmですが,よりファイン・ピッチにすることも可能です」(監物氏)。

 FEDの方式には,キヤノン・東芝連合が開発を進めたSED型や,カーポン・ナノチューブ型などがあるが,同社のナノスピント型のメリットは,極めて電子源の数が多いことだという。一つのゲート・ホールの寸法が120nmで,1画素に約1万5000もの電子源がある。

 「FEDでの一般的な問題として輝度ムラや色ムラが指摘されますが,これほど電子源が多いとアンサンブル効果が働き,少々エミッタの動作がバラついていても全体的に均一に見えるのです。従って,ユニフォーミティがとても良いのです。また,一瞬だけ光る線順次インパルス応答なのでボヤケが生じず,動画再現が圧倒的に優れるのも強みですね」と,監物氏は語った。

 同氏はコスト・メリットについても訴えた。「低電圧駆動であり,駆動ICは液晶用ドライバと同等のコストで作れます。カソードのアドレスも単純マトリクスなので,配線設計が簡単で作りやすい。構造も比較的簡単で部品点数も少ない。液晶とは異なりバックライトがなく,カソードのまわりの部品も少ないです。原理的には,数が増えると,安く作れるでしょう」(同氏)。

 アプリケーションは,まず放送局用のマスター・モニターを考慮している。「γ特性は,テレビ放送の指数関数的なカーブに近いので,無駄なビットを使わず,放送用の信号に対応可能です。黒は黒として表現でき,視野角的にどこから見ても黒ですから,さまざまな角度から見られるモニターに適しています。液晶パネルのように低輝度側で色再現力が下がることはなく,全階調領域で安定した色再現が得られることも,プロフェッショナル向けに適しています。温度特性も広く,低温向けの特殊用途にも対応可能です」。

 高速応答を生かしたアプリケーションとして,24fps(frame per second)から240fpsまで対応できることを展示ブースでデモンストレーションしていた。さらに高いレートやインターレース駆動も可能であるという。「240fpsでは,立体感や異次元の臨場感を感じます。時間当たりの映像情報量が多いのが,その理由でしょう。FEDとしては,ハイエンドなプロフェッショナル市場から参入し,序々に新たな領域で確固たる地位を築きたい」(監物氏)と講演を締めくくった。

無機ELの高画質化戦略

 3番目は「厚膜誘電体無機EL(TDEL)の高画質化戦略とアプリケーション」というタイトルで,カナダiFire Technology Corp.の和迩浩一氏が講演した。無機ELは長い間研究されていたが,カラーが困難という問題を抱えていた。iFirは絶縁層にそれまでの薄膜ではなく厚膜を使うことで,フルカラー化を可能にした。そこで「厚膜誘電体無機EL(TDEL)」と名付けたのである。「テレビ用パネルの開発,技術開発は完了し,今後はアプリケーションを広げたい。まだ薄型テレビに参入していないメーカーに対して採用を働きかけます」と,和迩氏は言う。

 青色の無機ELパネルに色変換フィルタを組み合わせて赤色と緑色を作るというシンプルな構造に加え,アドレスも単純マトリクスなので,コストが安いという。「2011年の段階で,液晶パネルより安く作れる可能性があります。パネル・コストは30型で液晶より15~20%安いと試算しています。パネル・メーカーが液晶パネルと同じ価格で出荷すると,利益が得られます」(同氏)。 

 同社では34型を数年前に試作している。そのときのスペックを和迩氏は明かした。「ピーク輝度400cd/m2,8ビット階調,暗所コントラストは1000:1以上,NTSC比100%以上が当時のスペックですが,現在はこれを上回っています」(同氏)と言う。

 今後の課題として和迩氏は「効率の高い青色の蛍光体材料の開発,フルハイビジョンに向けたパネル製作技術」を挙げた。それは新開発の高輝度青色蛍光体により改善にメドが立ったという。青色パネルは当初は蒸着法で製造していたが,2004年にスパッタリング法に変更して以来,輝度向上が目覚ましい。色にじみや,色変換膜の成膜高さの違いで視野角依存性が生じるという問題も指摘されているが,色にじみに対してはブラック・マトリクスによる遮蔽(しゃへい)構造により,視野角の問題は変換層の平坦化によって,それぞれ対応するという。

 「今後はテレビに加え,平面発光体,文字表示パネル,小型グラフィックス・パネル,フレキシブル・ディスプレイなど,新しいアプリケーションを開発します」と,和迩氏は期待を述べた。

【訂正】記事掲載当初,著者の名字が「朝倉」となっておりましたが「麻倉」の誤りでした。読者の皆様と関係者の皆様にお詫びして訂正いたします。