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 「例えばイタリアの映像を見て,そこに行きたいかどうか,そこに立ちたいかどうか,という影響を映像コンテンツは与える。自分が見たいもの,見てもらいたいものが満足して見られるためのコントラストや残像であるかどうかを考えながら,映像ソフトとの競合・共有を前提にディスプレイの開発を続けてほしい」。10月25日に行われた「FPD International 2007」の2日目の基調講演で,映画監督で日本映画監督協会理事長の崔洋一氏は,コンテンツの作り手の立場から,今後のフラットパネル・ディスプレイ(FPD)のハードウェアの開発姿勢について語った。

 会場では,ステージ上にプラズマ・テレビと液晶テレビを1台ずつ並べた。前半,約6分間の映像を映してその見方などを解説した。「この床の大理石が石畳に見えるか,じゅうたんに見えるか,見るものの中身によっても違ってくる。最終的には好みや感性でディスプレイを選んでいる」として,プラズマか液晶かの優劣は議論しなかった。また,「見る場所によって画面がどのように見えるかは,見るプログラムやメディア,コンテンツによって変わってくる。家電量販店で見るのと家庭で見るのでは違う」と述べた。

映画の世界はアナログが標準

 崔氏は,「世界の映画の標準はアナログである。80%がフィルムで撮られている」として,画素のないフィルムに「デジタルは追いついても追い越せるものではない」とした。しかし,「合成や効果,音声などにデジタルは,いやというほど使われており,デジタルの役割は中間処理」とした。「アナログは消え去るものではない。良質なコンテンツをお客様に与えるという考えが大切」とした。

 ディスプレイの開発については,「コントラストや階調,解像度などが必要なのは当たり前。フィルムが圧倒的に良いため,いい映像は映画館に来て見て,家庭用ディスプレイはユーザーの選択に任せる」とした。その上で,「8畳間といった生活環境もディスプレイのあり方に影響を与えている。ハードウェア開発のためには,生活哲学を考えなければならない。ただ薄ければ,大きければいいのか,経済的効果はどうかなど,いろいろな側面から考えなければならない。その中で,技術でしのぎを削る企業間競争が技術を向上させる」とした。そして「自分たちにとって必要な情報,未知の情報やさまざまなコンテンツとどう出会っていくのかが大切であるということを考えて,ディスプレイを開発してほしい。われわれ作り手に夢を与えてほしい」とした。