「FPD International 2007フォーラム」のセッションC-2「新アプリ創出狙うMEMSディスプレイ/新型電子ペーパー」では,米QUALCOMM MEMS Technologies, Inc.(QMT),米Pixtronix, Inc.,オランダLiquavista社の3社が最新の低消費電力ディスプレイ技術について講演した。3人の講演者の共通した問題提起は,「モバイル用TFT液晶パネルは消費電力が大きいこと」である。今後モバイル機器は高画質が求められる,いわゆる「画像観賞モード」での使われ方が増えるにつれて,電池の容量が増大し,重くそして形状が大きくなる。このような技術トレンドを踏まえて,“ディスプレイの低消費電力化は急務”である。

QUALCOMMの「iMoD」ディスプレイ

 QUALCOMM MEMS Technologies(QMT)のTony Li氏は,「野外表示性能を最適化した低消費電力FPDの最新技術」と題して講演した。QMTは「iMoD(interferometric modulator)」技術をベースとするディスプレイの開発に取り組んでいる。この次世代ディスプレイ技術は,MEMS技術を駆使した薄膜フィルム間のエア・ギャップに生じる光干渉現象を使って3原色を表示する。反射型であり,屋外表示に適している。携帯電話機にiMoDディスプレイを使うことによって,例えば屋外でビデオを観賞できる時間は,TFT液晶パネル搭載の携帯電話機の2.9時間に対して,iMoDディスプレイを搭載した場合では3.7時間に延ばせるとした。

 この10月23日に,中国H社とのパートナシップがスタートしたとのことである。このiMoDディスプレイは偏光板不要,カラー・フィルタ不要,室内で使う場合はフロント・ライトが必要になるが,低消費電力といえよう。

Pixtronixの「DMS」ディスプレイ

 続いてPixtronixのNesbitt W. Hagood氏が「超低電力消費と超高画質,Pixtronixの『DMS』ディスプレイ技術が実現」と題して,同社のDMSディスプレイ技術について紹介した。この技術も面白い。バックライトからの光を“メカニカル・シャッタ”でオン・オフするという。シャッタは15~25Vで開き(オン),電圧を切れば閉じる(オフ)。動作速度はそれぞれ54μsと38μsとのことである。

 どのように使うか? TFT基板の表示画素に液晶の代わりに光シャッタを形成する。この基板とシャッタに対応するスリットを形成したLED付きのバックライト・ユニットを張り合わせて合体させる。駆動方法はフィールド・シーケンシャルを使う。階調表示は1フィールドを例えば四つのサブ・フィールドに分け,シャッタの開いている時間を1,2,4,8と変調する。駆動周波数(color field rate)は720~1440Hzと高速駆動である。2008年中旬には,低温多結晶Si-TFTアレイ基板を使った2.5型QVGA,各色7ビットのDMSディスプレイをデモする予定である。LEDバックライトを使うが,偏光板が不要なので,原理的には低消費電力といえる。

Liquavistaのエレクトロ・ウエッティング・ディスプレイ

 最後にLiquavistaのRob Hayes氏が,「エレクトロ・ウエッティング・ディスプレイを製造,モバイル機器の革新技術」と題した講演で,エレクトロ・ウェッティング技術を使ったディスプレイを紹介した。「水と油」――。一見して仲の悪い組合せの材料だが,電界によって水の中の油膜の面積を制御する。面積が変わることによって光の反射面積が変わる。これを使って明るさ(階調)を制御する。色は油に染料を混ぜることによって変えることができる。画素面積が160μm×160μmの場合,およそ20Vの電圧を印加すると,膜状の油は9~10msで一つのコーナーに凝集し,80%の“開口率”になる。

 カラー化は,反射型の場合,シアン,黄色,マゼンダに着色した油膜を用い,減法混色で実現する。透過型の場合は,黒色の油を光シャッタとして,バックライトと赤,緑,青色のカラー・フィルタをストライプ状,あるいは白画素を加えた正方形配列によって実現できる。2006年の学会「SID 2006」で同社は,完成度は低いが2.5型QQVGAのエレクトロ・ウエッティング・ディスプレイをデモしている。工程のほとんどがLCD工程と共有できる。液晶の代わりに薄い油膜と50μmの水をサンドイッチ状に挟み込めばよい。偏光板も不要であり,このディスプレイも低消費電力といえる。

 同社は,2008年第2四半期には,腕時計用の反射型モノクロディスプレイを商品化する計画である。白地に黒,白地に赤,黄色など,染料によって色は自由に変えられる。

TFT液晶と戦うためには

 いずれの技術も原理的には,TFT液晶パネルに比べて低消費電力となる可能性がある。しかし,TFT液晶パネルと戦うためには,消費電力だけでは勝てない。例えば,画像というからには,「色再現域(色度座標)」はTFT液晶と互角かどうか。反射型表示で利用する太陽光は,朝,昼,夕方で波長分布が変わってしまう。言い換えれば,TFT液晶パネルの強みは,バックライトを内蔵しているがゆえに,安定した分光特性を持った“光”が供給されていることにあると言えよう。

 さらに,DMSについていえば,外光反射をどのように低減するか,という疑問がある。100名を超える聴講者にとっても,2~3年後にそれぞれの技術がどのようになっているか,楽しみに見守っていただきたい。願わくは,育てる側にも回っていただきたい。