図1 シンクロナスDRAMの読み出しシーケンス<br>シンクロナスDRAMにおける,読み出しの仕組みを示した。まずはコマンド/アドレス・バス経由で列アドレスと行アドレス,読み出しコマンドを発行した後に,一定期間経ってからクロックに同期してデータの読み出しを実行する。
図1 シンクロナスDRAMの読み出しシーケンス<br>シンクロナスDRAMにおける,読み出しの仕組みを示した。まずはコマンド/アドレス・バス経由で列アドレスと行アドレス,読み出しコマンドを発行した後に,一定期間経ってからクロックに同期してデータの読み出しを実行する。
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 今回からは,各種プロセサで使われるメモリの動向を解説する。まずは,シンクロナスDRAMを取り上げる。シンクロナスDRAMはその名前の通り,入力クロックに同期(synchronous)してデータのやり取りを行うDRAMを指し,JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)により規格が標準化されている(図1)。

 シンクロナスDRAMの利点としては,

(1)同期回路なので設計が容易である。
(2)回路がそれほど複雑ではなく,FPGAやPLDなどに用いてもそれほど大きな回路規模とはならない。そもそもシンクロナスDRAMに関しては,標準ライブラリなどで回路が提供されるのが普通である。
(3)非常に多くのメモリ・ベンダーから,同一仕様の製品を入手できる。

などがある。速度としては,JEDECの仕様に定められる83MHz,100MHz,125MHzの3種類があり,ほかにも66MHz,133MHz,166MHz,183MHz,200MHzといった製品が多く存在し,これらの製品はほぼ互換といえる。例えば100MHz動作の製品を66MHzで使ってもそれほど問題になることはなく,事実そうした使い方をするケースは多い。バス幅としては,4,8,16ビットの3種類が標準であり,一部ベンダーはさらに32ビットの製品も提供している。このため,必要とする帯域とメモリ容量に合わせて,柔軟に構成することが可能になっている。メモリ容量では,16Mビット(2Mバイト),64Mビット(8Mバイト),128Mビット(16Mバイト),256Mビット(32Mバイト)などが標準である。ベンダーによっては32Mビット(4Mバイト)品や512Mビット(64Mバイト)品を用意するところもある。

 ちなみにシンクロナスDRAMを規定するもう一つパラメータがCASレイテンシである。頭文字を取って「CL=X」といった表記をすることが多い。これは列アドレスを発行してから実際にデータが出てくるまで何クロック必要かを示すものである。例えば,前述の図6の例なら2クロック後にデータが出てくるので,CL=2と表記する。66MHz動作品や100MHz動作品の辺りまではCL=2が普通だが,さらに高速になるとCL=3が一般的である。CLの値が大きいほど,メモリに読み出しの要求を出してから実際にデータが出てくるまでが長くなるので,性能がやや悪化する傾向にある。

昨今は低価格/低性能品向け

 シンクロナスDRAMは,かつては32ビット・マイコン向けのメイン・メモリとして広い範囲で利用されてきたものの,昨今は低価格/低性能品向けに位置付けられることが多い。主な理由を挙げると,次のようになる。

(1)32ビット・マイコンは高性能化の一途をたどっており,シンクロナスDRAMでは動作速度に追い付きにくい。バス幅を広げれば速度は追い付くが,メモリのチップ数が増えたり,配線幅も広がったりしてしまう。これは必ずしも得策ではない。
(2)パソコン向けメモリとしてごく標準的に使われる,いわゆるコモディティーの座から外れた。現在のパソコン向けメモリの主役は,DDR SDRAMを経てDDR2 SDRAMに移行している。
(3)消費電力の絶対値はそう高くないものの,転送帯域当たり消費電力が低くない。理由は二つあり,まず電源電圧が3.3Vと高いこと。もう一つは,旧来のプロセスで製造されていることが多いため,メモリ・チップの消費電力そのものも大きいこと。これは最近の「低消費電力・高性能」のトレンドについて行くためには大きなハンディである。なお,メモリ・ベンダーによっては,2.5V動作や1.8V動作といった低電圧品も提供しており,これを使えば省電力化は図れる。ただし,ベンダー数が限られている。

 結果として,設計や試験のコストを抑えるために旧来の構成をそのまま流用する場合を除き,新規に設計する場合にシンクロナスDRAMを選ぶ理由はあまりない。この傾向は,32ビット・マイコンを使うときに顕著である。今後は,次第に需要が減っていくだろう。その一方,8ビットや16ビット・マイコンで外部メモリが必要な場合では,今後もシンクロナスDRAMが使われていくと思われる。16ビット・マイコンではDDR SDRAMでは高速すぎる上,インタフェースの構造も複雑になるのでコスト面で折り合いがつかないからだ。

 なお,シンクロナスDRAMは,現在生産されるほぼ全量が組み込み向けと言ってよい。価格は,パソコン向けのコモディティーの座から外れたことがあり,かつてに比べてだいぶ高くなった。相当量の契約でも結ばない限り安価とは言えない。