開発した送受信ICの評価用ボード
開発した送受信ICの評価用ボード
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 センサー・ネットワークといえば,ZigBeeやIEEE802.15.4などの低消費電力型の無線ネットワーク規格を使うのが定説だ。それに対し,無線LANのインフラを使ってセンサー・ネットを構築しようとするメーカーが米国に登場した。

 米カリフォルニア州シリコンバレーのベンチャー企業であるGainSpan Corp.は,センサー・ネット用途に向けて消費電力を低減した無線LAN用ICを開発,一部のメーカーにサンプル供給を開始した。特徴は,待機時の消費電流を大幅に低減した点である。最も低い待機時モードでは,1.8V動作時で2μA,3.6V動作時に5μAで済む。数μWという数値は,従来品の1/10~1/100に相当する。10mm角のチップに,RF送受信回路とMAC/ベースバンド処理回路,そしてマイクロコントローラまで集積した。

単3形電池で5年以上

 GainSpan社は,米Intel Corp.から飛び出した技術者らが,センサー・ネット向け半導体の開発を目指して2006年9月に創業したベンチャー企業である。当初は,ZigBee/IEEE802.15.4規格に準拠した送受信ICの開発を進めていたが,途中で無線LAN規格のIC開発に方向転換した。その理由は,「ZigBeeやIEEE802.15.4は,世の中にまだインフラが広まっていない。つまり,対応チップを作っても,使える市場が限られる。一方で無線LANの場合,そこかしこにインフラが敷設されている。特に米国では,様々な場所に無線LANを利用できるエリア(いわゆるホットスポット)がある。この無線LANをインフラとして使えるセンサー・ネット用のチップを作れば,市場は大きいに違いないと考えた」(GainSpan社 President & CEOのVijay Parmar氏)。

 ただしこれまでの無線LAN用チップでは,待機時とはいえども消費電流が数百μWと高く,そのままではセンサー・ネットワークには適用できない。センサー・ネットで利用するためには,単3形乾電池で2年程度駆動可能といった,低い消費電流が求められる。

 このためGainSpan社は,待機時で数μAオーダと,ZigBeeチップ並みに低い消費電流の送受信ICを開発した。「我々のチップを使えば,1分間に1回だけデータを送受信するような使い方であれば,単3形乾電池で5年以上は使えるだろう」(GainSpan社のParmar氏)。消費電力を低減できた理由は,徹底した回路アーキテクチャの見直しと,クロック・ゲーティングにある。同社は回路の詳細などはまだ明らかにしていないが,待機時に回路のほとんどの箇所へのクロック供給を停止する構成などを採用しているようだ。チップ内部のCPUコアとしてARM7を二つ持っており,ホスト側機器に組み込んだ際にホスト側の負荷を軽減できるとする。

 チップの名称は「GS1010」。GainSpan社は,開発したチップを工場内管理やビル内機器管理,家庭内のセキュリティ用途などに向ける考えだ。「無線LANのアクセス・ポイントさえあれば,どんな場所でもセンサー・ネットワークのエリアに変えられる」(GainSpan社のParmar氏)。組み込み機器に向けるためのソフトウエア開発キットも提供を開始した。まずは2.4GHz帯利用のIEEE802.11b/g規格に準拠するが,今後高速版であるIEEE802.11n対応版なども出荷する考えだ。将来的には,携帯電話機などの機器への組み込みの可能性もあると,同社は期待している。