図1 26GHz帯向け増幅器
図1 26GHz帯向け増幅器
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図2 5GHz帯向け増幅器
図2 5GHz帯向け増幅器
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図3 フィールド・プレート構造
図3 フィールド・プレート構造
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図4  AlGaN層でのAl組成の均一化やAlGaN層の膜厚の均一化を図る技術
図4  AlGaN層でのAl組成の均一化やAlGaN層の膜厚の均一化を図る技術
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図5 動作中の素子の電界分布を解析する技術
図5 動作中の素子の電界分布を解析する技術
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図6 転位がゲート漏れ電流に与える影響を解析した成果
図6 転位がゲート漏れ電流に与える影響を解析した成果
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図7 デュアル・フィールド・プレート構造
図7 デュアル・フィールド・プレート構造
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 NEDOは,GaN系半導体を用いる高周波素子に関する研究開発プロジェクト「窒化物半導体を用いた低消費電力型高周波デバイスの開発」の成果について発表した。代表的な成果として挙げたのが,26GHz帯で連続動作時の出力が20.7Wの増幅器と,5GHz帯で同208Wの増幅器である(図1,2)(ニュース・リリース)。いずれも同周波数帯で世界最高水準と主張する。増幅器に使う高周波素子は,いずれもAlGaN/GaN系HEMTである。

 26GHz帯向け増幅器はビル間での無線通信での利用を,5GHz帯向けは第4世代携帯電話の基地局での利用を想定する。ビル間の無線通信では26GHz帯で出力20W程度,第4世代携帯電話の基地局では5GHzで100~200Wの出力を求める声が多い。そこで26GHz帯での出力20Wと,5GHz帯で200Wをプロジェクトの目標にした。

 今回開発した増幅器を応用すれば,例えば26GHz帯のビル間での無線通信では数km内のビル間で,データ伝送速度1G~10Gビット/秒の実現につながるという。5GHz帯向け増幅器は,第4世代の携帯電話基地局に応用することで10M~1Gビット/秒のデータ伝送速度で,小型かつ低消費電力の基地局を実現できるとする。

 現在こうした用途ではGaAs系HEMTや,Si製のLDMOSが使われている。例えば5GHz帯向け増幅器では「GaAs素子四つを連続動作させて出力100W程度を得ている。GaN素子でも連続動作で100Wに達する製品はないだろう」(プロジェクトに参加するNECの担当者)と説明する。従来26GHz帯ではGaN素子を利用し,連続動作で8W程度だったという。

 26GHz帯向け増幅器は,ドレイン電圧25Vで20.7Wの出力を得る。電力付加効率は21%で,利得は5.4dBである。5GHz帯向け増幅器はドレイン電圧50Vで208Wの出力である。電力付加効率は35%,利得は11.9dBである。

フィールド・プレート構造やリセス構造の採用などで実現

 今回の増幅器に利用したHEMTは半絶縁性SiC基板上に,バッファ層,GaN層,AlGaN層の順に積層している。26GHz帯向けの増幅器はHEMTを一つ,5GHzはHEMTを二つ用いる。5GHz帯用のHEMTの一つ当たりの出力は100W程度だという。

 5GHz帯用と26GHz帯用で大きく異なるのはゲート長である。高周波帯に対応するため,26GHz用のゲート長は0.2μmと,5GHz帯用の0.5μmに比べて短くしている。いずれもフィールド・プレート構造とリセス構造を採用する(図3)。

 今回,このフィールド・プレート構造とリセス構造の採用が高出力化に大きく寄与した。フィールド・プレート構造はゲート電極をドレイン側に延ばした構造を採る。この電極構造によって電流コラプスを抑制し,かつゲート電極部への電界集中を緩和して高耐圧化を図った。電流コラプスとは動作中にオン抵抗が増加する現象である。

 リセス構造は,AlGaN層にゲート電極を埋め込む構造である。このリセス構造によって電流コラプスの低減,高耐圧化,利得の向上につながった。

 今回,半絶縁性のSiC基板上へのエピタキシャル成長は主に豊田合成が担当し,HEMT素子や増幅器の作成はNECが担当した。基板は米Cree,Inc.のものである。

 今後は,GaN系高周波素子や増幅器の事業化にNECが,GaN系半導体をエピタキシャル成長させたウエハーの事業化を豊田合成が進めていく。いずれも2010年ころを目標にする。会見では2010年の市場予測も披露した。携帯電話基地局やビル間通信,携帯電話機,WiMAXなどで利用する増幅器の世界市場を2010年で5220億円と予測する。

成長技術や評価技術の成果なども発表

 このほかプロジェクトによって得られた成果についても紹介した。例えば成長技術では4インチのSiC基板にAlGaN/GaN系HEMT構造を設けた際に,AlGaN層でのAl組成の均一化やAlGaN層の膜厚の均一化を図る技術である(図4)。評価技術では,動作中の素子の電界分布を解析する技術や,転位がゲート漏れ電流に与える影響を解析した成果などを発表した(図5,6)。この解析技術によって転位の中でもらせん転位がゲート漏れ電流に大きな影響を与えていることが判明したという。

 このほか利得の向上を図る構造として,デュアル・フィールド・プレート構造も開発した(図7)。これはフィールド・プレートを2ケ所に設ける構造である。フィールド・プレートが1ケ所だと高耐圧化や電流コラプスの低減を図れるものの,利得が低くなるといった課題が生じていた。そこでデュアル・フィールド・プレート構造で利得向上を図った。ただし今回の増幅器に使ったHEMTではフィールド・プレート構造を採用した。

 プロジェクトの期間は2002~2006年度。立命館大学 理工学部 教授の名西憓之氏がプロジェクト・リーダーを務めていた。このプロジェクトには,立命館大学や新機能素子研究開発協会,産業技術総合研究所,豊田合成,NECなどが参加していた。

【訂正】 記事掲載当初,NEDOのプロジェクト「窒化物半導体を用いた低消費電力型高周波デバイスの開発」の目標を「6GHz帯での出力20W」としておりましたが,正しくは「26GHz帯での出力20W」です。お詫びして訂正します。記事本文は既に修正済みです。

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