産業および科学技術の進歩に欠かせない重要なツールが計測・制御機器だ。いま計測・制御機器の市場では,ユーザー・ニーズの中心が高性能機へと移動しつつある。これとともに,いわゆる「ミッド・ハイ・レンジ」の製品がユーザーの注目を集めている。地上デジタル放送や高速デジタル・インタフェース「HDMI」の普及とともに,AV機器向け計測・制御機器の動きも活発になってきた。ここでは5回に渡って,その動向を解説する。

 電子計測器や計測制御機器は,「マザーツール」と呼ばれている。産業の発展を支えるうえで,また科学技術を進化させるうえで不可欠の基本ツールだからだ。社会の基盤を支えている電力やガスの供給,交通や通信といったサービスと同じ役割を,産業や科学技術の分野で担っていると言っても差し支えない。

 計測器や制御装置の日本における年間生産額は約6000億円である。国内における産業の規模としては,決して大きいものではない。いわゆるIT産業のように急速な発展を見せているわけでもない。それにもかかわらず,電子計測器や計測制御機器の技術に対する技術者の関心は常に高い。最先端の技術を開拓するために,電子計測器や計測機器の進歩が重要なカギの一つを握っているからだ。電子計測器や計測器には,さまざまな革新技術のタネが集約されていると言っても良いだろう。

業界をけん引するICテスタ

 まず経済産業省がまとめた2005年の統計(生産動態統計)を基に計測器の市場動向を見てみよう。図1に「電気計測器」の生産高を示す。

 同統計上で電気計測器と呼ばれるものは,2種類に分けられる。業界では「ハコモノ」とも呼ばれている,一つのシステムとして提供されている機器と,プラントなどの設備に組み込まれる「設備装置」である。下の図1中で「電気測定器」として表示されているのが前者の機器である。このほかの機器のほとんどは,後者の設備装置と見て良いだろう。

図1

 近年,電気計測器の生産高に大きく寄与しているのは,「半導体・IC測定器」。いわゆるICテスタである。ICテスタは,「シリコンサイクル」をはじめとする半導体産業の動向に大きく左右されるため,電気計測器の中では比較的生産高の変動が大きい。また,世界全体でもICテスタを手掛けるメーカーの数は多くはないので,個々のメーカーの業績が全体の数字に影響してしまう。

 特に日本では,これまでメモリIC用テスタの比重が高く,生産高の変動が大きかった。最近ではシステムLSIなどをターゲットとしたSoCテスタへのシフトが進み,生産高の波は小さくなりつつある。半導体・IC測定器の中でも,液晶ディスプレイ(LCD)・パネルやPDP(plasma display panel)などのフラットパネル・ディスプレイ向け検査装置は,今後高い成長が期待されている。

 電気計測器からICテスタを除外すると,電気測定器と工業用計測制御機器の二つが生産高の大半を占める。次回では,この動向について述べる。(次回に続く)