日立製作所は「指静脈マネー」の実証実験の模様を報道陣に公開した。指静脈マネーとは,指の静脈をセンサで読み取って本人認証を行い,クレジット・カードの決済をするシステム。日立はクレジット・カード大手のジェーシービー(JCB)と共同でビジネス・モデルの開発を進めており,2007年9月からこのシステムを神奈川県川崎市の事業所「日立システムプラザ新川崎」の社員食堂と売店で試験的に導入している。

実証実験は9月にスタート。認証装置もすっかり食堂に馴染んでいる。
実証実験は9月にスタート。認証装置もすっかり食堂に馴染んでいる。 (画像のクリックで拡大)

 指静脈による認証は,静脈が生体内部にあるため偽造されにくい,指の表面の乾燥や汚れなどに影響されないといった特徴をウリにしており,銀行ATM(現金自動預払機)での採用が進んでいる(Tech-On!関連記事1)。日立によれば,生体認証システムを導入している銀行の8割までが指静脈システムを採用しているという。日立はパソコンや自動車など,ATM以外へも同技術を展開していく方針で,今回の実験現場となった社員食堂も新たな想定市場のひとつだ(同2同3)。日立は社内施設やホテル,ゴルフ場など,カードを持ち歩かないような場所をターゲットに拡販していくとする。

実験に参加できなかった従業員から,自分たちにも使わせてほしいとの要望が多いという。
実験に参加できなかった従業員から,自分たちにも使わせてほしいとの要望が多いという。 (画像のクリックで拡大)

 今回の実験に用いた認証装置は,装置上部に内蔵したLEDランプで近赤外線を指に照射,装置下部に組み込んだカメラで静脈パターンを読み取るというもの。本人拒否率が0.01%,他人受け入れ率が0.0001%と誤差は限りなくゼロに近い。認証自体は0.5秒程度で完了,カード決済まで含めても1~2秒で処理できる。実際,新川崎の社員食堂に並ぶ社員の流れは滞ることがなく,これまでの実験でも大きなトラブルは見つかっていないという。

売店でも使える。今後,日立全社に適用範囲を広げ,実用化を目指す。
売店でも使える。今後,日立全社に適用範囲を広げ,実用化を目指す。 (画像のクリックで拡大)

 価格は,認証装置そのものが2万8000円程度。認証データを格納するサーバやソフトウエアなどを含めたシステム全体で数百万円になる。日立はこの指認証マネーを「次世代決済手段のデファクト・スタンダードにする」としており,2008年度から3~5年間に,認証装置とソフトウエアだけで30億円の売り上げを見込む。

指静脈マネーの仕組み(日立製作所の発表資料より)
指静脈マネーの仕組み(日立製作所の発表資料より) (画像のクリックで拡大)