米国で発表されたばかりの読書端末を披露するE Ink社の桑田氏
米国で発表されたばかりの読書端末を披露するE Ink社の桑田氏
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読書端末を拡大してスクリーンに映した様子
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日本メーカーを経由しない懸念を示す
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 「電子ペーパーは,初めて日本を経由しない産業になる可能性がある」――。米E Ink Corp.でVice President,Sales and Marketingを努める桑田良輔氏は,2007年10月3日に開催された特別セッション「未来予測デジタル産業2007-2020」の中で,同社が手掛ける電子ペーパー事業の現状を踏まえ,このような見解を示した。電子ペーパーを採用した機器の開発,さらに電子ペーパー自体の技術開発や生産といった点で,このままでは,海外メーカーが中心となる可能性が高いという指摘である。

 まず,電子ペーパーを採用した機器開発において,日本メーカーは,海外メーカーに比べて腰が引けていると桑田氏は指摘する。その理由の一端は,ソニーが2004年4月に発売した読書端末「LIBRIe(リブリエ)」にあるという。「電子ペーパーを採用した機器であるLIBRIeは,事業的に成功したとはいえない。この事実が,ネガティブに働き,その後,日本では誰も読書端末を手掛けなくなってしまった」(桑田氏)。

 これに対し,海外における読書端末の開発は加速しているという。E Ink社の電子ペーパーを採用して,米Sony Electronics Inc.が2006年10月に米国で発売した「Sony Reader」は,予想以上の反響で事業として成功しているとする。このため,後継機を2007年10月2日に発表したばかり。桑田氏は,セッションにこの新型機を持ち込んで披露した。さらに「現在は,我々の電子ペーパーを採用した読書端末は世界で8社が量産しているが,2008年には20社になる見込みだ」(桑田氏)という。この20社はすべて海外メーカーであるとし,米Microsoft Corp.も試作機を開発したことを明かした。

 読書端末だけでなく,電子ペーパーを採用した携帯電話機の開発についても,日本メーカーは消極的だったと指摘する。「数年前,日本の携帯電話機メーカーに売り込みにいったが,取り合ってもらえなかった。決まって『液晶パネルと同じ信頼性が達成できたら,もう一度来なさい』と言われた」(桑田氏)。

 これに対し,桑田氏の売り込みに積極的に姿勢を見せたのが,米Motorola, Inc.だったという。「Motorola社は,新たな分野の開拓に積極的だった。我々の電子ペーパーの信頼性が足りない部分は,Motorola社が使いこなしの技術で補ってもらえた」(桑田氏)。こうして発売されたのが,2006年11月にインドで発売した「MOTOFONE F3」である。これまでに1000万台を販売したという。

 電子ペーパーを採用した機器の開発だけでなく,電子ペーパー自体の開発についても,海外が中心になる可能性があるとする。日本メーカーでも,富士通やブリヂストンなどが電子ペーパーの開発を進めている。しかし,桑田氏は先行して電子ペーパーの商用化に成功した立場から,これらの技術に対して「あと3年は,本格的に立ち上げることは難しいだろう。我々も,当初はさまざまな壁にぶつかった」とした。

 さらに,先行して市場投入が進むE Ink社の電子ペーパー技術を支援するのは,「韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.や韓国LG.Philips LCD Co.,Ltd.,オランダRoyal Philips Electronics社,台湾Prime View International Co, Ltd.」(桑田氏)といった海外メーカーだという。こうしたことから,冒頭のコメントのように,電子ペーパーの開発・生産から,機器開発まで,すべてが海外メーカー中心で進むとの懸念を示したのである。「液晶,PDP,有機EL…,ディスプレイ産業は,いずれも日本メーカーが中心になって立ち上げた。しかし,電子ペーパーは,そうなっていない」(桑田氏)。

 桑田氏がこうした指摘をするのは,日本メーカーに期待しているためである。「これから,電子ペーパー技術はまだ改良を進めていかなくてはならない。それは,やはり日本メーカーの技術力の支えがあってこそ実現できる。電子ペーパー産業を大きくするためにも,ぜひ,日本メーカーに期待している」(桑田氏)と締めくくった。