図1 携帯電話機のデータをワイヤレスのヘッドセットに人体を介して送信
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図2 足元の送信モジュールから送られるデータを携帯電話機で再生。靴を履いていても通信できる
図2 足元の送信モジュールから送られるデータを携帯電話機で再生。靴を履いていても通信できる
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図3 人体通信のモジュールを使って,携帯型音楽プレーヤの音楽を再生した
図3 人体通信のモジュールを使って,携帯型音楽プレーヤの音楽を再生した
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図4 通信モジュールの解説
図4 通信モジュールの解説
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 CEATECでは,人を介して通信を行う「人体通信」機能を利用する機器と部品が展示された。NTTドコモは携帯電話機を,アルプス電気は通信モジュールを発表した。

 NTTドコモは,人体通信用の通信モジュールを搭載した携帯電話機を試作した。今回の携帯電話機をポケットに入れたり,首から提げたりしている人は,通信端末に手をかざすだけでデータをやりとりできる。従来は,例えば「おサイフケータイ」のように携帯電話機をいったん取り出し,通信端末にかざす必要があった。今回は,携帯電話機はポケットなどに入れたままで,自分の手を通信端末にかざすだけでよい。

 会場では,今回の携帯電話機から音楽データを,コードのないヘッドセットに送った(図1)。ヘッドセットには電極と受信モジュールがついており,人体を介してデータを受け取ってスピーカで再生する。さらに,床に埋め込んだ送信モジュールから,人体を介して文字データを携帯電話機で受信するデモも行った(図2)。「発売時期は未定だが,2009年に製品になる可能性がある」(NTTドコモ)という。

試作機は富士通製。ここに搭載した通信モジュールは,カイザーテクノロジーとアルプス電気が開発した。今回の通信モジュールのデータ伝送速度は40kビット/秒。

 一方,アルプス電気は同社のブースで,人体通信のためのモジュールを使ってやはり音楽データを伝送するデモを行った(図3)。携帯型音楽プレーヤにつながった通信モジュールと,スピーカにつながった通信モジュールを設置。それぞれに手を近づけると,人を介してデータが流れ,音楽を再生する。この通信モジュールの量産体制を,「来年度中(2009年3月まで)に整える予定」(同社新事業推進部光&センサプロジェクトの技術説明員)とする。

 手が通信モジュールに直接触れておらず,数cm離れていたり,ハンカチなどの絶縁物を介して対向したりするだけでもデータは流れる。人間がコンデンサのような役割を果たしてデータを流す「電界方式」という方法を利用した(図4)。

 通信モジュールのデータ伝送速度は40kビット/秒(送信も受信も可能)。「今後,需要を見ながら数k~数百kビット/秒のモジュールも開発していく計画」(アルプス電気 事業開発本部 プロセス技術開発センター 開発3部 第3センサプロジェクトの開発担当者)である。消費電力はBluetoothなどよりも1ケタ低いという。

 人体通信の応用は,一般的には,握手したり近づいたりした人が持っている携帯端末間で行う名刺情報や文書/写真データなどの通信,携帯電話機とヘッドセットの間の音声通信,手をかざすだけで通過できる改札や電子施錠・開錠システムなどが考えられている。カップルが互いに手をつないだり寄り添ったりしながら,1台の携帯型音楽プレーヤを共有し,それぞれのヘッドセットで同じ音楽を聴く,といった使い方もできる。このほか,「体脂肪計のデータを携帯電話機に取り込むなどのヘルスケア分野,ボディー・コミュニケーションを利用したゲーム分野などの用途も考えられる」(アルプス電気の技術説明員)。

 人体通信に詳しい東京電機大学工学部電子工学科 講師で,横須賀テレコムリサーチパーク(YRP)情報通信技術研修 講師の根日屋英之氏(アンプレット 代表取締役社長)は,「人体通信の方法は,電流方式と電界方式の2通りに大別でき,それぞれ研究開発が進められている。世界では,軍用に人体通信用装置が開発された例があり,欧州でも開発が進んでいるが,民生用で実用化した例は少ない。日本も先行して市場を作っていくチャンスがある。今後,他の短距離無線通信や光通信システムとの互換性がとれるように,標準化を業界全体で検討すべきだ」(根日屋氏)と指摘した。

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