米Intel Corp.は,送受信する周波数や帯域幅を動的に変更できる「リコンフィギュラブル・アンテナ」技術を実装したノート・パソコンを,IDF Fall 2007に出展した。
ノート・パソコンの液晶パネル面の裏側に,リコンフィギュラブル・アンテナを三つ組み込んだ。無線LANと携帯電話の送受信モジュールを別に備えており,それぞれのモジュールが三つのアンテナを自在に切り替えて使う。「将来のマルチラジオ時代に向けた必須技術」(Intel社)と位置づける。2009年~2010年における,ノート・パソコンのプラットフォームに組み入れることを目指す。
MEMS利用も視野にいれる
用いたリコンフィギュラブル・アンテナは,MOSFETスイッチを切り替えることで,送受信周波数など動的にを制御できる。例えば,1)3本のアンテナをすべて2.4GHz帯の無線LAN(IEEE802.11b/g)で利用し,MIMO(multiple input multiple output)伝送を行う,2)3本すべてを5GHz帯無線LAN(IEEE802.11a)に使う,3)2本を無線LANのダイバーシチとして使い,1本を携帯電話で使う,4)3本すべてを携帯電話で用い,MIMO伝送(HSPAやLTEを想定)で用いる,といった使い方を想定する。
三つのアンテナと,無線LANおよび携帯電話の送受信モジュールの間に,アンテナ経路を切り替えるための「change logic」と呼ぶ部品がある。そのchange logicの切り替えは,「control logic」と呼ぶ専用のマイクロコントローラで制御する。change logicはフィルタの集合体のような構成で,control logicはノート・パソコンの周辺チップセットに組み入れることを想定している。RFモジュールとアンテナの間に部品を組み入れる場合には,挿入損失が問題となる。ただしIntel社はchange logicの挿入損失などは明らかにしていない。
次世代無線LAN(IEEE802.11n)やモバイルWiMAX,第3.9世代携帯電話(LTEやUMB)などは,いずれも複数アンテナ利用のMIMO技術をベースとしている。この際,各伝送方式ごとにアンテナを用意すると,アンテナ数が10個以上に膨れ上がることが予想される。Intel社は,リコンフィギュラブル・アンテナ技術によって,アンテナ素子数増大によるコストアップや実装面積増加といった課題に対応することを狙う。
リコンフィギュラブル・アンテナ技術の研究について,Intel社はこれまでも,成果を発表していた(Tech-On!の関連記事)。今回のIDFでは,技術セッションの場において実際にアンテナを組み込んだ試作品を見せたほか,制御用ソフトウエアのアーキテクチャや評価結果などを明らかにした。さらに,リコンフィギュラブル・アンテナの開発の推進を,参加したパソコン・メーカーや部品メーカーの技術者に対して呼びかけた。参加者は,技術セッションが終了してから講演者を取り囲んで質問攻めにした。なかでも日本や韓国のメーカーからの参加者の関心の高さが目立った。
Intel社は,今回はMOSFETスイッチで切り替えるタイプのリコンフィギュラブル・アンテナを試作に用いたが,このほかMEMS利用のアンテナも同時に開発を進めていることを明らかにした。試作したノート・パソコンは,現行のCentrinoプラットフォーム(開発コード名はSanta Rosa)をベースにしている。Centrinoは2008年に次世代版の「Montevina」(開発コード名)に移行するが,「リコンフィギュラブル・アンテナは,Montevinaの登場までには間に合わない。その次,あるいはさらにその次のプラットフォームが目標になる」(Intel社)としている。次世代マイクロアーキテクチャ「Nehalem」(開発コード名)世代のノート・パソコンでの利用を目指しているようだ。なお,開発は米オレゴン州の拠点で進めている。