日経エレクトロニクス分解班の前には,「PSP-1000」および「PSP-2000」の内部がそのすべてをさらしていた。
既に,大方の解析は終えている。液晶モジュールも無線モジュールも,部材レベルまで解体された。もう,あらゆる部品は解体しつくしたはず…。場の空気が弛緩しかけたとき,技術者の一人が提案した。
「ねえ,あの電池モジュール,開けてみようよ」
それは,分解好きの技術者にとっては悪魔のような囁きだった。
モジュール内にムダな空間?
PSPの電池モジュールには一つ,興味をそそる点があった。外装がゆるやかな曲面を持っていることだ。
もし角型の電池セルが入っているとすると,曲面がある分だけ内部に無駄な空間があることになる。
「過電圧を防ぐ安全回路をこの空間に格納しているのかな。とにかく,開けてみよう」。件の技術者は,おもむろにある工具に手を伸ばした。
※電池モジュールの分解は非常に危険なので,専門家の助けなしには絶対にまねをしないで下さい
「たいていの電池モジュールは,これで外装に圧力を掛ければ,外装が割れるんですよ」。技術者は慣れた手つきで電池モジュールをクランプに取り付け,金具を回し始めた。ぱきっと乾いた音が鳴り,外装が簡単に割れた。技術者は外装をこじ開けにかかっ…
もわっ
かすかに白煙が上がった。もしかして,セルの電解液を逃がす圧力弁が開いたのか…。一瞬,場に緊張が走る。幸い,電池モジュールに発熱などの危険な兆候は無い。常に温度を監視しつつ,解析にかかった。
「ははあ,やはりこの曲面部は空っぽだったんですねえ…」。どうやら電池モジュールの外装を曲線としたのは,PSP本体の外装と電池モジュールとの間に空間を作らないための措置のようだ。安全回路は電池モジュールの脇に格納されていた。
新型では空間を活用
次に,PSP-2000の電池モジュールを開けにかかる。
「あれっ,クランプじゃ開かないなあ」
PSP-1000の電池モジュールを簡単に開けてみせたクランプが,新型の電池モジュールには通じない。仕方なくマイナス・ドライバーなどの工具でこじ開けにかかる。
※しつこいようですが,専門家の助けなしには絶対にまねをしないで下さい
PSP-2000の電池モジュールには,いくつかの改良が加えられていた。まず,安全回路が両面基板から片面基板となり,外装の曲面が作った空間に格納されていた。この設計変更は,電池モジュールの小型化に貢献する。実際,PSP-2000に搭載された電池モジュールの容量は1200mAhと,1800mAhだったPSP-1000の2/3になっている。
さらに,安全装置と電池セルの間に樹脂板を配置することで,強度を高めている。クランプでは開かなかったのは,この樹脂板が圧力を受けとめていたためのようだ。これらの措置によって電池モジュールの質量は増えるが,電池モジュールの安全性をさらに高めること優先したようだ。