ソニー 代表執行役社長の中鉢良治氏
ソニー 代表執行役社長の中鉢良治氏
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 ソニー 代表執行役社長兼エレクトロニクスCEOの中鉢良治氏は,大学見本市「イノベーション・ジャパン2007」(2007年9月12~14日,東京国際フォーラム)で基調講演した。講演テーマは「イノベーションの創出を目指して」。同氏が大学の博士課程修了後にソニーに入社した経緯にも触れながら,企業と大学の連携のあるべき姿について今後の展望を披露した。

 中鉢氏は産学連携が成功するポイントとして,(1)「1,10,100」という考え方の大学への浸透,(2)企業と大学の役割分担の徹底,(3)博士並みの能力を持つ理工系人材の育成と活用,の三つを挙げた。

 (1)の「1,10,100」とは,アイデアや基礎研究など技術の種を「死の谷」を超えて製品化するまでには基礎研究の10倍のエネルギーが必要。さらに,その後,「ダーウィンの海」という市場競争による淘汰を生き残るにはさらに10倍のエネルギーが必要,という考え方である。

ソニーの非接触ICカード技術「FeliCa」にも2度の大きな関門


 中鉢氏は,2007年3月に発行枚数の総計が2億枚を超えたという「FeliCaカード」の例を引いて,この考え方を検証してみせた。具体的には,ソニーはICタグの技術を20年前に開発したものの,香港の交通システムに利用するまで用途がうまく見つけられなかったという。しかも,「香港の交通システムが求める厳しい要件を満たすものは,当初は1000個に2個しか作れなかった」(中鉢氏)。高い歩留まりで量産できるかどうか明確な根拠がない段階で当時の経営陣が賭けに近い設備投資の決断を下したことが,最初の関門を乗り越えることにつながったという。

 その後,JR東日本でもFeliCaを採用する話が出てきたが,その時は規制という壁にぶつかったという。「FeliCaの読み取り機能を搭載する改札機ごとに無線機としての審査が必要と言われた」(中鉢氏)ことである。これでは,導入コストが膨大になってしまう。中鉢氏は機器の詳細なデータの提示と粘り強い交渉で「駅ごとの免許申請でOK」(同氏),最終的には「メーカーの機種ごとに審査する型式認定でよいことになった」(同氏)という。

 (2)の役割分担については,東京通信工業(現ソニー)が1951年に始めた磁気テープに関する東北大学 教授の岡村俊彦氏との共同研究の例を挙げた。「大学側は基礎研究,ソニー側は応用という明確な役割分担があったことでうまくいった」(中鉢氏)。

 (3)については「企業は,修士を終えた学生が研究開発の即戦力になることを期待しているが,現実はそうなっていない」(中鉢氏)と,人材育成上の課題を指摘した。一方で「博士は専門にこだわり,企業にとって使いにくい傾向があることで,大学と企業のミスマッチが起こっている」(同氏)。解決策として,従来の博士課程を見直し「テーマが変わっても柔軟に対応できる人材を育成する」(同氏)ことの重要性を訴えた。

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