2007年以降,製品安全に関する情報を積極的に開示しようとする気運が,電機メーカーを中心に強まっている。背景にあるのは,同年5月14日に施行された改正消費生活用製品安全法だ。松下電器産業や三菱電機は,事故情報そのものを自社のWebサイト上で常に開示する体制を採っている。

 松下電器産業は,同社のWebサイト上で消安法に基づく重大事故のうち「ガス機器・石油機器に関する事故」と「ガス機器・石油機器以外に関する事故であって製品起因が疑われる事故」について開示している。つまり,経産省によりメーカー名が公表される事故が,同社Webサイト上での開示対象だ。このような開示を始めたのは「事実を広く明らかにし,お客様に正確に事故をご認識いただくため」だと,同社は説明する。2007年6月6日に始めた。

トップページから矢印の順にリンクをたどっていくと,事故情報リストに到達する。
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 こうした取り組みの背景には,経産省や業界団体による働きかけがある。経産省は,改正消安法の施行に当たり,企業に製品安全への自主的な取り組みを求めるガイドラインを2007年3月に公表。このガイドラインでは,規模の大きい製造事業者に対して,製品安全に関する「自主行動計画」を内部統制の一環として取締役会で決議し,対外的に開示することを要求している。

 このガイドラインの内容を受けて,業界団体の家電製品業界でも自主行動計画と具体的なガイドラインを策定。傘下企業や団体に独自の自主行動計画の策定を要請している。これらの動きを受けて,松下電器産業は上述の取り組みを始めた。加えて,同社では自主行動計画基本方針を関連部門間で協議・策定。2007年6月27日の取締役会で決議した。この基本方針は同社のWebサイト上に掲載されている。

 その松下電器産業よりも「厳しい」開示体制を採用しているのは三菱電機だ。同社では,「ガス機器・石油機器に関する事故」「ガス機器・石油機器以外に関する事故であって製品起因が疑われる事故」に加えて,「ガス機器・石油機器以外に関する事故であって原因が特定できていない事故」も開示している。「原因が特定できていない事故」は,経産省発表ではメーカー名が公表されないのだが,同社はそこをあえて公表している。「公表の透明度を高めようという考え」(同社広報部)に基づいており,同社の方式が「いずれは業界の標準になるかもしれない」(同社広報部)と考えているようだ。改正消安法の施行と同時に開示体制に入っており,実際に開示が始まったのは2007年6月上旬だという。

トップページから矢印の順にリンクをたどっていくと,PDFファイル形式の事故情報リストを閲覧できる。
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 事故情報を開示することには,その効果について肯定・否定の両方の意見があるが,こうした企業の動きはじわじわと広がっているようだ。現在の開示対象は,消安法に基づく「重大製品事故」に限られているが,対象を「ヒヤリ・ハット的な事故」まで拡大した事故データベースを構築しようという動きもある。内閣総理大臣(首相)の諮問機関である国民生活審議会が2007年6月に安倍晋三首相に提出した案「安全安心のための書き込み自由の事故情報データバンク」(仮)がそれだ。その特徴は,消費者がWebサイトを通じて自由に事故情報を発信できることにある。

 同様の取り組みは,既に自動車分野で採り入れられている。国土交通省が運営する「不具合情報ホットライン」である。国交省はWebサイトや電話で事故情報を受け付け,体裁を整えた上で事故の内容はほとんどそのままWebサイトに掲載している。

 ただし「安全安心のための書き込み自由の事故情報データバンク」や「不具合情報ホットライン」は,基本的に生データの羅列であり,一般の消費者にとってそのままの形で役立つものかという観点ではやや疑問だ。メーカーは,事故情報を最もよく知る当事者である以上,上記のシステムや経産省のように生データを羅列するだけでなく,相応の分析を加えた情報も開示して,初めて意義のある取り組みといえる。また,メーカーごとの発表では全体の傾向を見逃す恐れがあるため,「製品」や「業界」といった単位での横断的な事故情報データベースの構築や分析が有効になるだろう。