文部科学大臣の諮問機関である文化審議会 著作権分科会傘下の私的録音録画小委員会の第9回会合が2007年8月9日に行われた。この小委員会はいわゆる「私的録音・録画補償金制度」の廃止や骨組みの見直し,さらには他の措置の導入を視野に入れて抜本的な検討を行なっている。

 第9回会合では第7回,第8回に引き続き,私的録音録画補償金制度の課題と改善策を審議した。ただしこの審議は「仮に補償の必要性があるとして」という留保付き。議論は事務局が第6回の会合で提示した「私的録音録画に関する制度設計について」という資料に示された事務局による提案(資料へのリンク)に基づいて進められている。

 今回は「補償金の額の決定方法」「補償金管理協会」「共通目的事業のあり方」といった項目や「録音源・録画源の提供という行為に着目した制度設計」といった項目について審議した。

 例えば,補償金の額は現在,関係者が協議して合意した金額を,学識経験者で構成された文化審議会著作権使用料部会の意見を聞いて文化庁長官が認可する形になっている。事務局による整理ではこの方式にはプロセスの透明性の面で改善の余地があるとし,学識経験者に利害関係者を加えた「評価機関」を設置する改善策を提案している。こうすることで決定プロセスを透明にできるほか,手続きを迅速化できるとする。なお,事務局案ではこの評価機関が,現在政令で指定している対象機器や記録媒体の指定も担う予定だ(この是非に関しては第8回で議論された)。

 この提案に対して今回の会合では,権利者サイドの委員から「ある種のスピード感が重要。対象機器が決まっても補償金額がいつまでも決まらないというのでは意味がない。即応性を課していく必要がある」(日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏)など,おおむね賛成する意見が出た。

 この一方で消費者サイドの委員である主婦連合会の河村真紀子氏からは,「まるで既定路線のように語られているが,(評価機関が対象機器や媒体を)追加して拡大することを目的とするなら,消費者として賛成できない」と反対意見を述べた。また,日本記録メディア工業会の井田倫明委員は「(評価機関に)利害関係者が入ったら,議論の迅速性を保てるとは思えない。2年も議論を続けているこの委員会が良い例だ」と,事務局の前提そのものに疑問を投げ掛けた。


補償金の全額をクリエータの保護に


 現行制度では徴収した補償金の20%を割り当てると決められている共通目的事業に関しては,IT・音楽ジャーナリストの津田大介委員から「20%の枠を外してほぼ全額をクリエータの支援に使えばどうか」という提案があった。津田氏の案は,徴収した補償金を本来の権利者に正確に分配するのはもともと不可能という前提に立つ。「20%は現状で年間5億円程度。この程度のお金ではたいしたことはできない。くだらない広告に使うくらいなら,生活に困っている有能なクリエータを支援するために補償金の全額を使う方が有意義」(津田委員)。これについては河村委員や椎名委員からも賛成の発言があった。

 一連の議論の中で,何度か出てきたのは「補償金制度は暫定的な解決策」という見方である。例えば,DRM技術などが発達して,消費者と権利者が個別に契約を結べる状況が支配的になれば,補償金制度の対象になるコンテンツ自体が事実上無くなり,制度が不要になる。その状態を目指す形で現行制度を整備するべきといった考え方である。駒沢大学教授の苗村憲司委員などからこうした意見が表明された。

 これに対し,日本放送協会ライツ・アーカイブスセンターの石井亮平委員は,「私的録音録画の範囲を残していくという考え方もある。補償金制度の廃止については慎重に考えるべき」と懸念する意見を述べた。

 事務局を務める文化庁長官官房著作権課 著作物流通推進室長の川瀬真氏は,「補償金制度が対象とするコンテンツはおもに,事実上コピーフリーのCDからの録音と無料テレビ放送の録画。ネット関連の新しいビジネスは著作権法30条の対象外にして,個別契約で処理できるのではないか」と制度の適用対象をいたずらに拡大しない方針を示した。制度自体の将来については「補償金制度が不必要になる条件は(報告書に)明示したい」とする一方で,「(今回の制度改定は)制度を無くす方向に努力するものではない」と釘を刺し,制度の廃止を指向しない立場を確認した。

 なお,補償金制度の「制度設計」についての議論は今回の会合ですべて終了した。次回以降は「私的録音録画に関する制度設計の前提条件」について,改めて審議を行う予定である。具体的には著作権法30条の適用範囲の縮小や著作権保護技術と補償の必要性との関係などについて話し合う。

 このような変則的な審議過程になったのは,第5回までの会合で消費者やメーカー側と権利者側の委員の意見がかみ合わず,「そもそも論」の応酬で議論が先に進まないという状況が頻発したからである。この状況を踏まえ,紛糾が予想される制度の前提条件の整理についての審議を後回しにして,必要かどうか分からない制度の設計について先に議論する形になった。

 つまり次回以降は改めて「そもそも論」に取り組むことになる。電子情報技術産業協会(JEITA)の亀井正博委員は,次回会合に向けて「JEITAとして前提条件に対する疑問点を整理した意見書を用意する」と発言しており,今後は一筋縄ではいかない議論が続きそうだ。