「コスト1/3で処理性能も向上」,日本TIがアナ-デジ混在チップ用EDAを乗り換え
日本テキサス・インスツルメンツは,アナログ・デジタル混在LSIのデジタル部のレイアウト設計用EDAツールを乗り換えた事例について,日本ケイデンス・デザイン・システムズが東京で開催中のプライベート・ショー「DA SHOW/CDNLive! Japan 2007」で講演した。正規ライセンス価格ベースでツールの価格が1/3になっただけではなく,自動処理の結果も改善し,さらに使い勝手も向上したという。
登壇したのは,日本TIの高畠剛氏(ハイパフォーマンス・アナログ事業部EDA)である。従来,日本TIは,アナログ・デジタル混在LSI(大半がアナログで一部がデジタル)のデジタル部分の設計に,米Cadence Design Systems, Inc.の「Silicon Ensemble(SE)」を使っていた。CadenceはSEからEncounterシリーズへの移行を図っており(Tech-On!関連記事),「SEのロードマップが明確でないことやLinuxのサポートがないために,将来を考えてSEに代わるツールを探すことにした」(同氏)。
新しいツールは四つの条件を満たすことを求めていた。すなわち(1)コスト削減,(2)性能の維持/向上,(3)スムーズな移行,そして(4)新たな付加価値である。これらの条件を満たす製品として同社が選んだのは,Cadenceの「Virtuoso Digital Implementation Product(VDIO)」だった。同氏はVDIOが四つの条件を満たしていたことを説明していった。
まず(1)のコストである。同氏によればVDIOの正規ライセンス価格は,SEのそれの1/3で(ちなみにEncounterをSEの2倍),条件を満たした。正規ライセンス価格が下がったのは,VDIOが機能を制限している製品パッケージだったからである。例えば,扱える回路規模は5万ゲート未満で,機能も少ない。しかし「今回のEDAツールを適用するデジタル回路は,いわゆる先端ではない。例えば,動作周波数は50MHz未満,回路規模は10万ゲート未満,製造プロセスも350nm〜180nmである。この意味でデジタルの先端品向けの自動レイアウト・ツールは明らかにオーバー・スペック」(高畠氏)。
上述したように,VDIOのコストは問題ない。となると必要な機能が,VDIOの制限された機能群に含まれているかどうかだ。日本TIで必要な機能は「配置」,「信号配線」,「スタティック・タイミング解析」,「クロック・ツリー合成」の四つで,こられはいずれもVDIOが備える機能だった。0.18μmのチップの場合には,さらにシグナル・インテグリティのサインオフ機能が必要だったが,このプロセス世代のチップはそれほど多くはないため,必要な際にはASIC設計フローを借用することにした。
(2)の性能に関しては,自動配線の性能をSEとVDIOで比べた結果を同氏は説明した。例えば,タイミング最適化を行わない3層配線チップの例では,VDIOで処理した場合の方がSEよりも総配線長が11%短かった。またタイミング最適化を行う4層配線チップの例では総配線長が7%短くなった上に,タイミング違反も小さくなった。
(3)の条件のスムーズな移行に関しては,「VDIOはその名の通り,Virtuosoと関連性が深いので,マニュアルでの修正が必要になった際には,SEを使っている場合よりも簡単になった」(同氏)。またRCパラメータ抽出はVDIOに変更した際に,やや複雑なフローになった。そこで,抽出ツール(CadenceのAssura-RCX)のスクリプトを自動的に発生する機能を整備したことで,設計者の負荷は変更前と同じにできたという。
最後に(4)のVDIOの導入によってもたらされる新たな付加価値として,二つの機能が利用できるようになることを,高畠氏は挙げた。すなわち「Netlisit2Netlist」と呼ぶネットリストの最適化機能と,「VCAR Interface」と呼ぶ配線機能である。前者によって回路規模は4.9%(配置配線後では3.2%)小さくなった。また後者を使うと,差動ペア,マッチト・ペア,シールド配線,バス配線など,アナログによくある配線が容易に探索できるようになる。
CadenceのVDIOの製品企画が日本TIの要求に合致したためだろうか,今回のツールの乗り換えは「いいことづくめ」と言えそうな内容だった。講演後のQ&Aでは「(それほどいいことならば),設計者は移行を歓迎しているか」という質問が出た。高畠氏の答えは次のようだった。「正直言って全員が全員とも歓迎しているわけではない。今でもSEしか使わないグループもある。われわれは,移行のためのガイドブックを作成した。これはわれわれEDA部門が両方のツールを使って問題点を洗い出した結果から,編み出したものである。新しいツールの「Quick Start」といった内容になっている」(同氏)。
なお,VDIOの現場への導入は1年ほど前から始まり,現在までに約10品種に適用したという。












