ワイヤレス電力伝送装置と実験チーム。左のコイル状のアンテナから右のアンテナに電力を伝送し,60Wの電球を点灯させている。中段左がMarin Soljacic氏。写真提供:Massachusetts Institute of Technology
ワイヤレス電力伝送装置と実験チーム。左のコイル状のアンテナから右のアンテナに電力を伝送し,60Wの電球を点灯させている。中段左がMarin Soljacic氏。写真提供:Massachusetts Institute of Technology
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 米Massachusetts Institute of Technology(MIT)は,同大学のAssistant Professor of PhysicsであるMarin Soljacic氏の研究グループが,ワイヤレス電力伝送装置を試作し,7フィート(約2.1m)離れた60Wの電球に電力を送って点灯させることを実証したと発表した。内容の詳細は,オンライン版Scienceである「Science Express」の2007年6月7日号に掲載された(WWWページ)。従来,Soljacic氏らは理論と数値計算で動作原理を確認していたが,その原理に基づいた装置を試作して,実際に電力を伝送できることを実証したのはこれが初めてである。

 Soljacic氏の研究グループが今回試作したのは,「磁場結合共鳴器(magnetically coupled resonators)」とよぶ電力の送受信器。具体的には,それぞれLC回路の特性を備えた一対のアンテナである(写真)。二つのアンテナは,共に直径6mmのCu(銅)線を直径60cmのコイル状に5.25回分巻いたもの。コイルの長さは20cmである。実効的な静電容量(C)とインダクタンス(L)を持つことで周波数9.90MHzで共振するLC回路として機能する。

 電力を送信する側のアンテナにこの共振周波数の交流電界を印加すると,その周辺に振動磁場が発生し,共鳴現象によって数波長以内の距離にある受信側のアンテナに電力が伝わる(日経エレクトロニクスの特集記事)。受信側のアンテナには,電球を付けた回路を接続してある。

2m離れてもエネルギー効率は40%

 今回の共鳴型ワイヤレス電力伝送は,電磁波とは異なる「近接場」の共鳴を利用するものである。ワイヤレス電力伝送には,このほかにコイル(インダクタ)による電磁誘導型や,電磁波を直接送受信するタイプもある。

 共鳴型は,電磁誘導型と比較して利用する磁場がずっと弱く,それでいてより長い距離を伝送できる。具体的には,二つのアンテナを2m離した場合のアンテナの中間点の電界強度の計算値は平均自乗根(rms)で210V/m,磁界強度は同1A/mである。電磁波の送受信型と比較すると,共鳴型はシステムの遠方に電磁波の形で流出するエネルギーが少ないため,電力の伝送効率が非常に高い。論文によれば,今回の伝送効率はアンテナ間の距離が2mの場合に約40%であるという。