飲料メーカーのアサヒビールは,音響機器メーカーのTOAと共同で,広い3次元空間へも適用できる低周波数音の低減技術を開発した(発表資料)。制御音(逆位相の音)を当てることで騒音を打ち消す,いわゆる“騒音アクティブ制御”手法を用いる。

 波長が長く,人には低く聞こえる低周波数騒音については,不眠,頭痛,イライラ感など人体への心理的・生理的な悪影響が指摘され,対策への関心が高まっている。環境省は周波数100Hz以下の騒音問題を「低周波音問題」と定義し,2004年には「低周波音問題対応の為の手引」を発表するなどしている。しかし,中/高周波数音に比べ低周波音は,遮蔽物を透過・回折してしまうほか,音源からの距離による減衰が少ないといった特性があり,一般的な騒音対策である防音壁,遮音材,吸音材などでは効果的な低減・消音が難しい。このため,低周波騒音への苦情件数は近年,増加傾向にあり,そのおよそ半数は工場や事業場に関わるものという。

 これに対しアサヒビールは,騒音アクティブ制御法に着目し,制御音の調整についてのアルゴリズムを開発した。主な特徴は,騒音の主成分の消音可能な成分のみを選択することと,騒音の周波数の変化に対応できるフィードバック方式であることとした。演算量は小さく抑えており,効率的な騒音低減が可能とする。さらに,独自に騒音アクティブ制御技術を開発していたTOAと共同研究を実施し,騒音源に対する消音用スピーカーおよび騒音検出用マイクの相対的な位置関係を工夫したことで,広い3次元空間にも適用可能にした。

 これまでにも,騒音アクティブ制御の原理を用いた試みはあり,TOAもディーゼル・エンジン排気消音システムを実用化している。しかし,これを含め実用化されている技術の多くはヘッドホンなどの閉鎖空間や排気ダクトのような1次元空間を対象としたものだった。現在,アサヒビールとTOAは共同で,より少ないスピーカーとマイクによるシステムで,より広い3次元空間の騒音を低減できる装置の開発に取り組んでいる。実際にこれを応用できる用途の可能性は大きいと考えており,業務用設備のみならず家電も見据えている。

 今回の開発は,アサヒビールの技術開発研究所によるもの。2001年に設立された同研究所は,「食と健康」および「環境」を研究分野として,新規事業をにらむ技術/機器開発を行っている。低周波騒音低減についての研究は,快適な生活環境の提供を新規事業とする目的で,2002年に始めていた。今後も,両社は工場など実環境下における実証実験を行うなど,製品化を目指すとしている。

“騒音アクティブ制御”の原理
“騒音アクティブ制御”の原理
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