セイコーエプソンがエコリカを相手取り,エプソンのインク・カートリッジに関する特許(第3257597号)をエコリカが侵害しているとして製品の販売差し止めと損害賠償を請求していた訴訟の控訴審(平成18年(ネ)第10077号 特許権侵害差止請求控訴事件)で,知的財産高等裁判所はエプソンの訴えを棄却した。東京地方裁判所に提訴し,2006年10月に棄却されたが(関連記事1),エプソンはこれを不服とし,即日控訴していたもの。

 第3257597号の特許は,1992年2月に出願され,これを親出願として2000年12月に分割出願されている。分割出願は,元になる親出願と内容に相違がなければ出願日の遡及が認められ,出願日が親出願と同じになるが,そうでない場合には実際に分割出願が行われた日が出願日になる。東京地裁の判決では,2000年12月の当該出願は分割出願の要件を満たさず出願日が2000年12月になるとし,さらに,2000年12月の出願に含まれる発明は1992年4月の公報(特開平4-257452号,これもエプソンの特許)にある発明と同一で新規性を欠くため特許は無効であるとしていた。今回,知財高裁も,当該特許は分割出願の要件を満たさないと認定し,これに基づき特許は無効とした。

 そもそも,この係争における最大の争点は,エプソンのプリンタ用インク・カートリッジをエコリカがリサイクルする(インクを詰め替える)にあたり付け替える「パッキン」が,エプソンが発明し特許の保有を主張する「環状のシール材」に当たるかどうかだった。しかし,1審,2審とも,権利行使の前提となる特許は無効でエプソンの請求には理由がないとして,この点についての判断を見送っている。

 エプソンは,この判決を「特許法の誤った法令解釈に基づく不当なもの」として,最高裁判所に上告することを検討している(発表資料1)。これはあくまで“遵法経営”に則ったもので,「非純正品について否定するものではない」という。これに加えて,同社はリサイクルへの取り組みをアピールしている。

 エコリカは,この判決を「純正品メーカーがリサイクル・インク(使用済みインク・カートリッジを回収し,インクを詰め替えて再び使えるようにしたもの)を封じ込めるために特許の権利範囲を不当に拡大して権利行使を行ったことに対して,特許自体を無効とすべきと判断したもの」で,環境保護の機運が高まる中「社会情勢とも合致した極めて妥当な判断」であるとして,これに一定の評価を与えた(発表資料2)。しかし,この判決では「純正品メーカーの権利行使を制限した」ものの,リサイクルと“特許権の消尽”に関する問題や,純正品メーカーがリサイクル・インクの市場参入を拒むことなどは争点にしていない。この点については「単に環境に良いからとの理由で,メーカーの保有する特許を無視してもよいと言っているわけではない」と前置きした上で,「環境とのバランスを含めて論議ができなかったことは,リサイクル・メーカーとして非常に残念」とコメントしている。

 同社は,キヤノンとリサイクル・アシストの訴訟に補助参加を申し立てており,リサイクルと特許の消尽に関する問題などについて,最高裁判所で論議を尽くすよう意見を表明している。キヤノン対リサイクル・アシストの訴訟では,東京地裁における1審でリサイクル・アシストが勝訴(関連記事2),知財高裁における2審でキヤノンが逆転勝訴し(関連記事3),現在,最高裁で審議が続いている(関連記事4)。