2007年3月以降,NAND型フラッシュ・メモリの供給が不足している。ほんの数カ月前まで,供給過剰で価格が暴落していたのがうそのようだ。

 NAND型フラッシュ・メモリの需給が逼迫(ひっぱく)している理由は,いくつかある。韓国メーカーがNAND型フラッシュ・メモリからDRAMへ生産ラインをシフトしたことも理由の一つだが(本シリーズ第2回「DRAMの短期展望:投資おう盛で供給過剰,価格下落でようやくVista効果」参照),需要が拡大していることが最大の要因だ。

 需要拡大はあらゆるアプリケーションで起きている。価格が大幅に下がったことで,より大容量へ需要がシフトしているからだ。例えばメモリ・カードで見ると,2006年の主流は512Mバイトだったが,2007年春には販売価格が5000円を切った1Gバイトに需要がシフトした。流通マージンが低い米国では,2Gバイトが主流になっている。価格を下げることで需要を喚起する好循環がNAND型フラッシュ・メモリ市場では続いている。

 また,携帯電話機向けでも需要が拡大している。ソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーションズは2007年5月22日に発表した「ウォークマンケータイW52S」に,音楽保存用として2GバイトのNAND型フラッシュ・メモリーを搭載した(Tech-On!関連記事)。この携帯電話機の製品開発時には,まだNAND型フラッシュ・メモリの価格が高かったが,今回の値下がりで今後発売される携帯電話機はさらに搭載量が増えるだろう。

 そして,米Apple, Inc.の携帯型音楽プレーヤ「iPod」向けでもNAND型フラッシュ・メモリの需要が拡大している。6月発売予定の「iPhone」向けで第2四半期に,さらに第3四半期には「iPod Video」や「iPod nano」の新製品向けにNAND型フラッシュ・メモリ需要が拡大。iPod Videoでは,これまでハード・ディスク装置(HDD)で対応していた16Gバイト,32Gバイトの製品までNAND型フラッシュ・メモリで対応するようだ。そして,HDD搭載のiPod Videoは100Gバイト・クラスになる。2007年第3四半期は,iPod製品全体で月産600万~700万台レベルで推移する見通しだ。


図●NAND型フラッシュ・メモリの用途別需要(2006年実績,2007年予測)

 結果,「日経マーケット・アクセス」の予測では,2007年のNAND型フラッシュ・メモリの需要は,前年比2.3倍になる(上図)。

 2007年後半もNAND型フラッシュ・メモリの需給逼迫が続くのだろうか。韓国メーカーがDRAMからNAND型フラッシュ・メモリへ生産シフトすることはほぼ間違いない。iPodの新製品の生産急増が8月であることから,タイミングとしては既に韓国メーカーの生産シフトは始まっているはずだ。生産シフトの割合にもよるが,10月まではiPodの生産が落ちずに推移するので,それまではNAND型フラッシュ・メモリの需要も強く,需給は比較的逼迫した状態が続くだろう。

 問題は,iPodの減産が予想される11月以降だ。iPodの生産の盛り上がりがあまりに急峻なので,iPodの減産後はそれを埋め合わせるほどの用途が見つからない。供給過剰は必須だ。NAND型フラッシュ・メモリの需要減に合わせてDRAMへ生産をシフトすれば,今度はDRAMが供給過剰になる。NAND型フラッシュ・メモリとDRAMのどちらが供給過剰になるかは,韓国メーカー次第だ。