NICT(情報通信研究機構),ソニー,松下電器産業など20社は,60GHz帯のミリ波を利用した高速無線伝送技術を開発,IEEE802委員会に対して共同で提案した。

 1チャネル当たり2080MHzの帯域を使い,最大4.8Gビット/秒の高速無線伝送を10m程度の距離で実現できる。標準化を進めつつ,早ければ年内にもシステムを試作する方針だ。家庭内のAV機器間の動画伝送や,駅などに設置したKIOSK端末からの動画データの高速ダウンロードといった用途を想定する。

TG3cの有力候補に


 NICTらが提案したのは,IEEE802委員会において,ミリ波利用の高速無線規格の策定を進めている作業部会「IEEE802.15.3 Task Group 3c(TG3c)」。TG3cは2007年春から技術提案を受け付けており,5月中旬にカナダ・モントリオールで開催した内部会合において,各提案団体がプレゼンテーションを行っていた。全体で16の技術提案があったが,その中でNICTなどのグループが最多数のメーカー/団体を母体とする。投票権を持つ参加者の数も多数を占めていることから,TG3cの伝送仕様の最有力候補となった。

 TG3cでは夏以降,技術提案の統合や投票による選別を進めていく方針で,年内にも技術提案の1本化を実現したい考え。NICTらは,ほかの提案団体との協調を進めていくことで,投票を勝ち抜いていきたいとしている。

 共同提案した20社/団体は,NICT,ソニー,松下電器産業,米Tensorcom,Inc.,NTT,東北大学,富士通,三菱電機,沖電気工業,マスプロ電工,ATR,NEC,京セラ,東京工業大学,ユーディナデバイス,日本無線,EMMEX,太陽誘電,リコー,東洋システムエンジニアリング。これらの企業/団体を中心に,「CoMPA(Consortium of millimeter-wave practical applications)」というコンソーシアムを組織している。

 提案した伝送仕様は,単一搬送波を利用する。変調方式をASK,BPSK,QPSK,8相PSKから選択でき,誤り訂正符号(リード・ソロモンおよびLDPC)との組み合わせの相違によりいくつかの伝送モードを備える。

 利用を想定する機器として,家庭のAV機器のほか,携帯電話機を視野に入れている。このため,携帯電話機の内部発振回路で一般的な26MHzのクロックを利用できるようにしている。「携帯電話機にミリ波の伝送機能を組み込めば,駅のKIOSK端末から動画データの瞬時ダウンロード用途が実現できる。携帯電話機への搭載はそれほど遠くない」(NICT)。既にCMOS技術を使ったミリ波伝送用のRFトランシーバICの開発が,国内の半導体メーカーにおいて進んでいるという。NICTは今年度内にもKIOSK端末を試作し,実証試験を始めたい考えだ。

 なおTG3cへの技術提案としてはこのほかにも,ソニーやNEC,Samsung社などが推進する「WirelessHD」陣営や,オランダPhilips社などの提案があった。TG3cに参加し,OFDMの利用を呼びかけていた米Intel Corp.は,技術仕様の提案はしていない。今後Intel社がどの陣営と協調していくのかにも,注目が集まりそうだ。