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 日本人から見ると,中国人の作業員の行動には摩訶不思議と思えることが山ほどあります。そうした作業員たちを日本人の管理職がきちんと管理するのは簡単なことではありません。しかし,時には逆の立場で考えることも必要です。果たして,中国人の作業員の目に,日本人の管理者はどのように映っているのでしょうか。作業員たちと良好な関係を築く上でこれは重要な視点です。

 私自身,次のような経験をしました。私が日系メーカーの中国現地工場で製造部長として働いていたある日のこと。休憩時間中に,私は中国人の班長と雑談していました。

「最近,すごくプレッシャーを感じるんだよ。もしも,私がちょっと判断を間違えたら,部下の管理者から一般の作業員まで何百人もが間違った方向に進んでしまう。その結果,リワークすることにでもなれば,とんでもない損失につながってしまう。そう考えると,部長になる前の方がよっぽど楽だったよ。上司の悪口を言うだけでよかったから」

 すると,その会話を端で聞いていた女性作業員がこう言いました。

「私たちだって,仕事の時に自分の仕事が正しいかどうかいつも気にしているんだから。部長なんか楽なもんでしょ? 毎日部下たちをあごで使って,自分は冷房のきいた事務室で座っているだけじゃない」

 ドキッとしました。当時,私は作業現場にいるよりも,顧客対応や発生した不良の処理で事務室にこもることが多かったからです。実際には仕事量が多くて毎日残業続きで,決して楽な状況ではありませんでしたが,彼女の目には空調の効いた事務所で仕事をしていることは,楽な仕事であると見えるのでしょう。これはいけないと思った私は,自分の仕事用の机を事務所から出し,作業員が働く現場の真ん中の空きスペースに置きました。きちんと仕事をしていることを証明するためです。

 私が作業員のこうした意見に素早く反応した背景には,ある日本人管理者の失敗がありました。

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