地上テレビ放送がデジタル放送に完全移行した後に空くVHFやUHFの電波をどのように利用するかの大枠が2007年5月11日にほぼ決まった。

 VHF帯ローバンド(現行の1~3チャネルの18MHz幅)とVHFハイバンド(現行の4~12チャンネルの52MHz幅)のうち高域側の205M~222MHzは放送(ケータイ向け地上デジタル放送,デジタル・ラジオ,コミュニティ放送などを含む)用途に,VHFハイバンドの低域側170M~205MHzを自営通信(警察,消防・救急,防災・道路・水防などに利用する無線システム)に割り当てる。710M~770MHzが空くUHF帯は,地上放送との間に5MHzのガードバンドを配置し,715M~725MHzをITSに利用する。さらに,5MHzのガードバンドをはさみ,730M~770MHzを移動通信に利用する。

 UHF帯の利用方針については2007年5月8日に開催された総務省の情報通信審議会 電気通信技術審議会 電波有効利用方策委員会のVHF/UHF帯電波有効利用作業班の第8回会合ですでに報告されていた(Tech-On!関連記事1)。だが,VHF帯についてはこれまでの検討で,放送と,自営通信が利用するという方向性が打ち出されていたものの,放送と自営通信システムの共用条件や,周波数配置について,5月8日までに放送グループと自営通信グループの意見を合意できなかった(Tech-On!関連記事2)。

 一方,週明けの5月14日には,VHF/UHF帯電波有効利用作業班の親委員会にあたる電波有効利用方策委員会の第7回会合の開催が予定されていた。そこでこれに間に合わせるために,放送グループおよび自営通信グループの関係者が集まるアドホックな検討グループであるVHF共用検討グループの会合を,5月11日夜に緊急開催して今回の合意を得た。

VHFはガードバンドでなく与干渉雑音レベルで制限

 5月8日までの段階で,両グループの意見の合意を見ていなかった課題は,「周波数配置」と「共用条件」の大きく二つであった。周波数の配置については,両グループともにVHFハイバンド(現行の4~12チャンネルの52MHz幅)のうち高域側の確保を目指していた。結局は,携帯電話機のようなコンシューマ機器を対象にする放送の方が小型化に対する要求が大きいとして,放送用途に確保することになった。

 共用条件については,与干渉雑音レベルという概念を持ち出すことで解決を図ることにした。予干渉雑音レベルとは,相手のシステムに与える干渉雑音レベルの上限を規定しようというものである。VHFハイバンドにおける両システムの境界線となる205MHzを中心に±2.5Mz以上離れた周波数については,この与干渉雑音レベルを設定することにした。

これらを前提に,関係者の合意を見た主要な項目は次の通りである。
(1)VHFハイバンドの170M~205MHzの35MHz幅は自営通信に割り当てる。
(2)VHFハイバンドの205M~222MHzの17MHz幅とVHFローバンドの18MHz幅は放送用途に割り当てる(合計で35MHz幅)。
(3)自営通信に割り当てられた帯域のうち170M~202.5MHz,放送に割り当てられた帯域のうち207.5M~222MHzについては,与干渉雑音レベルを設定する。
(4)双方の予干渉レベルは同等とする。
(5)与干渉レベルは環境雑音(都市雑音)を目標値とする。
(6)雑音を規定するパラメータはアンテナ高,アンテナ利得,雑音電力などとする。
(7)実現にはあらゆる技術的手段を講じることとする。

 今回の会合では,こうした内容を盛り込んだ形で,電波有効利用方策委員会へ提出する資料の案が会議の冒頭で配られたが,一部の表現をめぐり議論が紛糾した。もともとの案では,「共用条件などが確保されない場合には所要周波数帯域幅の見直しも含めた審議・再調整を行うこと」といった内容が含まれていた。事務局を勤める総務省の担当者は,「電波有効利用方策委員会として与干渉雑音レベルなどを盛り込んだ報告書を出す以上,共用条件は確実に実行されるはず」としてこの表現を不要とし,削除を求めた。これに対して自営通信の関係者は「必ずしも技術的な検証がなされたわけではない」として削除に同意しなかった。結局,今回の会合ではこの点について最後まで合意できず,関係者の間で5月14日までに調整することになった。